「バルコニーにいる女優の友人はきれいだ」のような多義性を持つ関係節構文は多くの言語に存在するが、その処理選好性が言語間で異なる。第二言語における文処理は同文の言語間の処理選好性の相違を利用し、学習者の文処理は母語の文処理方略の影響を受けるか、それとも目標言語の処理方略を身に付くか、明らかすることを試みている。本研究はまず日本語、モンゴル語、中国語母語話者の同文構造の処理に着眼した。次に、日本語を第二言語(L2)とする学習者、母語がそれぞれモンゴル語(MJ)、中国語の日本語学習者(CJ)及び日本語を第三言語とする学習者、すなわちモンゴル語―中国語バイリンガルの第三言語(L3)(MCJ)日本語学習者を対象に、日本語の同文構造の処理プロセスに着眼し、L2及びL3の文処理における母語(L1)の影響の相違を検討した。その結果、第一言語(L1)において、モンゴル語と日本語は「友人がバルコニーにいる」という高位解釈を選択することに対し、中国語母語話者の場合、「女優がバルコニーにいる」と解釈する傾向があることが示唆された。L2グループにおいて、MJは日本語母語話者と類似する処理傾向、つまり「友人がバルコニーにいる」という解釈を好むことが示されたが、CJは中国語母語話者の処理選好性と類似する処理傾向、つまり、「女優がバルコニーにいる」と解釈する傾向があることが明らかになった。これらの結果は、L1の処理方略がL2の処理プロセスに影響を与えることを示している。L3グループの結果では、L1およびL2の処理方略がL3の文処理に影響を与えることが明らかになった。L3グループはL1の影響を受け、MJと類似する処理が行われる一方、その処理傾向がMJほどではなかった。それはL2の中国語の影響を受けているためである。これらの結果を学会発表及び雑誌論文を通じて公開している。
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