研究課題/領域番号 |
17K17667
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
土肥 歩 東京大学, 大学院総合文化研究科, 学術研究員 (10731870)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 広西 / 災害 / キリスト教 / 宣教師 / 広東 / 香港 |
研究実績の概要 |
本年度の研究課題は、1890年代以降の広西省において除隊兵士(以下、游勇)が同時期の治安悪化にどのような影響を与えたのか、また、1902年の自然災害(以下、壬寅奇災)発生がその治安悪化にどの程度拍車を掛けたかについて分析を加えることであった。 本年度は、まず浙江省杭州市で行われた第7回中国近代社会史国際学術研討会(平成29年8月21日)において、「清末広西游勇反乱与壬寅奇災」と題して報告を行った。ここでは、清仏戦争(1884-1885年)以降に召集を受けた兵士たちが游勇となり、清仏国境付近で略奪に加担するようになった事実を確認した。そのうえで、既刊の中国語資料や日刊紙をもちいて壬寅奇災が游勇の騒乱に拍車をかけたことを実証した。そして、アメリカの宣教師や在広州総領事マクウェイドによる救済活動、英領香港による救済活動、そして中国国内の慈善団体による救済活動の実態について紹介した。 ただし、この報告では①欧米の外交当局者、②地域社会、③広西で活動していた宣教師の視点を十分に反映することができなかった。そのため、上記報告が終了した後に、さらに各種史料を追加し、游勇が地域社会に及ぼした影響と壬寅奇災の実態についてさらに分析を加えた。そして、アメリカ合衆国ワシントンD. C.にて行われたAssociation for Asian Studies conference(平成30年3月25日)で “American Missionaries in Guangxi Famine: Imperialism and Humanitarianism from a Local Perspective” と題して報告を行った。この報告では、アメリカ人宣教師や在広州総領事マクウェイドが人道主義として行った救済活動に焦点を絞り、同時期に行われていた中国政府の軍事作戦との関係を論じた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
理由の1つ目は、本年度の研究遂行期間中に、国外の学会で報告する機会を2度得られたからである。中国での報告では、同分野の研究者と研究内容について意見を交換することができた。また、アメリカでの報告では、キリスト教史やアメリカ人宣教師を研究する研究者から教示を得ることができた。とりわけ、後者の学会報告準備に際して、パネルを組んだ研究者とアジアにおけるキリスト教伝道という論点で何度も意見を交わす機会を得ることができ、強い刺激を受けた。 理由の2つ目は、新たな資料を閲覧し、そこから得られた知見を私の研究内容に組み込むことができたからである。たとえば、広西省で活動していたアメリカ宣道会ミッションがアメリカ国内で発行していた "the Christian and Missionary Alliance"や、ニューヨークで発行されていたキリスト教の総合雑誌"The Christian Herald"は、壬寅奇災についての情報を数多く掲載しており、キリスト教団体の災害救済の実態について多くの知見を得ることができた。中国語文献でも、広西省の地方志は壬寅奇災や游勇の動向を知るための基礎的な情報を与えてくれた。
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今後の研究の推進方策 |
本年度に遂行した研究活動を踏まえれば、次年度は投稿論文執筆に時間を割くのが妥当と考えられる。このとき、投稿論文を2本準備し、それぞれ異なる論点から分析を加える。 一つ目は、アメリカ宣道会ミッションと在広州のアメリカ総領事マクウェイドによって組織された「アメリカ救済遠征隊」による救済活動である。マクウェイドは干ばつや飢饉にあえぐ民衆を救済するために、アメリカで募金を呼びかけ、広西省の宣教師とともに救済活動に従事した。しかし、アメリカでの学会報告で紹介したように、人道主義的な名目で購入された救済物資の一部が、中国側の行政官の手に渡り、災害被災者が游勇の一団に加わるのを防ぐために配布された可能性が高い。そのため、アメリカ側が主導した越境的な救済活動を地域的文脈で読み解くという立場から議論を進めたい。 もう一つが、壬寅奇災発生後に英領香港が行った救済活動についてである。アメリカ人宣教師やマクウェイドとは別に、英領香港の総督ブレイクは「広西飢饉のための基金委員会」を発足させ、広西の被災者に対して救済活動を行っていた。ただし、中国での学会報告で考察したとおり、英領香港の行政官たちは、災害被害の悪化や游勇の活発化により広西省からの肉牛運搬が滞ることを恐れていた。このように、壬寅奇災が沿海地域に及ぼした社会的影響という観点からの論文執筆も望まれるだろう。 以上2つの論点から、本年度の研究活動遂行にあたりたい。
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備考 |
『明治学院大学キリスト教研究所紀要』の論文ダウンロードが可能
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