研究課題/領域番号 |
17K17668
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
澤井 賢一 東京大学, 大学院法学政治学研究科(法学部), 助教 (10754715)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 時間知覚 / ベイズモデル / Weber-Fechnerの法則 |
研究実績の概要 |
本研究は,リズムパターンに対するカテゴリー知覚現象を通して,脳が知覚情報に意味づけする仕組みを調べることを主な目的としている.今年度は,リズムパターンの知覚に対して以前に構築したモデル(Sawai et. al., 2012)の改良と,その改良モデルから予測される心理現象の検討を行った.改良前のモデルでは,時間的な順序によって生じる非対称性が再現できないという課題があった.具体的には,数100ms程度の間隔で提示される3つの区切り音による時間パターンでは,1つ目の時間間隔(1つ目と2つ目の区切り音が作る時間間隔)の長さを知覚する際に起こる錯覚は,2つ目の時間間隔(2つ目と3つ目の区切り音が作る時間間隔)の場合にくらべ,その度合いが小さいことが先行研究で分かっている.錯覚は知覚におけるトップダウン的なバイアスによって起こるとすると,順序に対して生じるこの非対称性は,1つのイベントの中では時間的に早いできごとの方がバイアスが弱いことを意味する.この点を再現するようにモデルを改良したところ,時間の知覚は,単純な条件ではWeber-Fechnerの法則に従うが,ある条件のもとではWeber-Fechnerの法則と逆の現象が起こることが示唆された.Weber-Fechner の法則は,知覚において広く観察されている心理現象で,たとえば時間知覚では,2つの時間間隔の長さの差を知覚するのに必要な物理的な長さの差は,対象とする時間間隔の長さに比例するというものである.予測した現象についてシミュレーションを行ったところ,心理実験での定量的な観測が困難であることが示唆されたため,今年度は現象の予測にとどめて成果発表を行った. また,知覚情報の記号的な扱いに関する知見を得るために,大澤智恵氏(武庫川女子大学)の行ったピアノ演奏実験に関し,ピアノ演奏中の知覚情報の役割の分析等を行った.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
今年度は,前年度に作成した装置を用いて心理実験を行う予定であったが,実験条件の検討が終わらず,実験の実施に至らなかった.一方理論の面では,モデルの改良と,それに伴って得られた新たな心理現象の予測という進捗があった.全体としては,ある面での進捗はあったが,雑誌論文を執筆できる程度の区切りまで成果が得られなかったことから,やや遅れていると判断した.
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今後の研究の推進方策 |
今後はまず,前年度に計画した実験条件の検討を引き続き行う.いくつかの条件で簡単な予備実験は行っているが,単純に条件を並べるだけでは実験時間が膨大になるため,実験参加者の負担を考慮すると,ある程度仮説をもって条件を絞り込む必要がある.そのため,検証すべき仮説を明確化するために,数理モデルの詳細化と組み合わせて条件を検討する.また,今年度得られた成果をもとにした,別の心理実験の実施を検討する.前者の心理実験に比べ後者は検討すべき条件が少ないと考えられるため,最終年度にある程度まとまった成果を出すためには,当初の計画からすると補助的な内容ではあるが,後者の心理実験の実施を優先することも視野に入れて研究を遂行する.
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次年度使用額が生じた理由 |
心理実験の実施が間に合わなかったため,予定していた謝金の支払いが発生しなかった.また,初年度の成果に対する論文の執筆も遅れており,投稿料として予定していた金額分が未使用であることも繰り越しが生じた理由である.繰り越し分は,今年度に予定していた実験の実施と論文の投稿料に充てる予定である.
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