研究実績の概要 |
本研究では, 過去の海洋環境, 特に海水pHと溶存二酸化炭素濃度の推定を目的としている.過去の海洋環境を記録するサンプルとして硬骨海綿の炭酸塩骨格に着目し,過去のpHおよび溶存二酸化炭素を推定するため,骨格のホウ素同位体比およびホウ素濃度を測定する.今年度は化石の硬骨海綿のホウ素同位体比を測定した. 沖縄県の海底洞窟で採取された堆積物中に埋没していた硬骨海綿の化石を入手した.サンプリングサイトの堆積速度はすでに決定されており, 化石硬骨海綿の年代も推定できる. 今回入手した化石硬骨海綿は計11個体で,およそ0.1~2kaの年代に生育していたと推定された.化学分析に先立ち続成作用による変質の有無を確認するため, X線回折で骨格の鉱物組成と走査型電子顕微鏡で骨格微細構造を観察した. 粉末にした骨格を洗浄し硝酸で溶解した後, 骨格サンプルのホウ素同位体比をマルチコレクター型誘導結合プラズマ質量分析計を用いて測定した.ホウ素同位体比は炭酸塩骨格が形成された時期のpHを記録することが知られており, 本研究でもホウ素同位体比から過去の海水pHを見積もった. その結果から, 化石の硬骨海綿試料が生息していた時代の沖縄周辺海水のpHは現在の海水pHとほぼ同じ値で,大きな変動は無かったと示唆された. 今後は水温の影響を検討するため,同一試料の酸素同位体比や微量元素濃度(ストロンチウムやマグネシウム)も測定する.また, 沖縄県とは水温が異なる海域で硬骨海綿を探索する.
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