本研究では褐虫藻が炭酸塩鉱物の多形選択に与える影響を検討するという目的から、造礁サンゴとシャコガイを生物源炭酸塩試料として選定している。平成29年度、平成30年度と造礁サンゴ骨格については、褐虫藻の有無といくつかの海水のMg/Caモル比を再現した環境でサンゴを飼育し、その骨格を得ることができた。これらの飼育実験を通じて、飼育条件の変更すべき点がわかっていた。令和元年度は飼育条件を改善する計画であったが、飼育に失敗した。そこで、平成30年度に飼育したサンゴの骨格を骨格構造や骨格組織を走査電子顕微鏡、CTスキャンで観察を主体に行った。 これらの研究から、次のことが分かった。現在の造礁サンゴ骨格(褐虫藻有)は炭酸塩カルシウムの1つであるアラゴナイトで構成されている。しかし、褐虫藻のいないサンゴを室温(約25℃)で飼育すると、海水のMg/Caモル比が現在の海水と同様に高いとき(~5)にも少量のカルサイト(炭酸塩カルシウム)が、さらにMg/Caモル比~3以下になるとカルサイト重量比が増加し、1以下ではカルサイトのみで骨格が形成されることが分かった。褐虫藻がサンゴと共生しているときに、海水のMg/Caモル比が1以下であるときもアラゴナイトを形成する。よって、褐虫藻は、カルサイトが形成されやすい海水環境であっても、サンゴの骨格形成場をアラゴナイトの形成されやすい状況する機能を担っていると推測される。また、骨格の表面構造が褐虫藻の有無により異なる可能性が確認された。 シャコガイについては本研究実施期間中に、飼育方法を確立することができなかった。シャコガイの褐虫藻についてもサンゴと同様の機能があるかどうかの検討を行うため、今後飼育法の確立を目指していく。
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