研究課題
2つのヌクレアーゼTrimmer、Nbrの基質となるpiRNA前駆体の違いを明らかにするため、本年度は、まずTrimmerおよびNbrのノックダウン細胞からsmall RNAライブラリを作製し、両者の相違を解析した。既に報告しているように、TrimmerノックダウンではpiRNA全体のわずかな伸長がみられたが、Nbrノックダウンでは、全piRNAを対象とした場合、piRNAの伸長は極めてわずかにしか認められなかった。一方、一部のpiRNAにおいて、NbrノックダウンでpiRNA前駆体と思われる長いpiRNAの蓄積が認められた。しかし、前駆体の蓄積と相関した成熟型piRNAの減少は認められず、長いpiRNAの蓄積が、Nbrによるトリミングが阻害されたことに起因するのか疑問が生じた。上記結果を確認するため、さらにTrimmerおよびNbrノックアウト細胞の樹立し、これらを用いて同様なsmall RNAライブラリを作製し、piRNAの性状を解析した。Trimmerノックアウト細胞では、Trimmerノックダウンと同様な表現型がみられたが、Nbrノックアウト細胞では、ノックダウンでみられた全piRNAのごくわずかな伸長は検出できなかった。さらに、トリミング活性を評価するin vitro実験においても、Nbrノックアウト細胞のライセートは野生型細胞のライセートと同等のトリミング活性を示したことから、カイコにおいては、NbrはpiRNA末端形成に寄与していないと判断した。一方で、一部のpiRNAにおける前駆体様の長いpiRNAの蓄積は、Nbrノックアウト細胞において観察された。これらのことから、一部のpiRNAにおいて、NbrはpiRNA前駆体の末端トリミングとは異なる過程に関与しており、その阻害は前駆体様の長いpiRNAの蓄積を引き起こすと考えられた。
3: やや遅れている
研究計画自体は予定どおりに進行したが、当初の予想とは異なる結果が得られ、研究計画の見直す必要が生じたため。
Nbrノックアウト細胞を用いた解析から、カイコNbrはpiRNA末端トリミングに寄与しないことが示唆されたため、当初の計画を変更し、今後は本年度の解析で樹立したTrimmerノックアウト細胞を用いた解析を行う。Trimmerノックアウト細胞では、トリミング前のpiRNA前駆体が蓄積することが予想される。piRNA前駆体は、エンドヌクレアーゼZucchiniにより産生されると考えられているが、Zucchiniの作用機序については不明な点が多い。Trimmerノックアウト細胞は、piRNA前駆体の性状やZucchiniの作用機序を解析する上で有用なツールになる可能性が高いことから、今後は、Trimmerノックアウト細胞を用いたpiRNA前駆体の形成機構について解析を行う。
当初の研究計画での予想と異なる結果が得られ、本来進めるべき実験の見直しを行ったため、次年度使用額が生じた。これらは、次年度新たに進める実験計画、Trimmerノックアウト細胞を用いたpiRNA前駆体の形成機構の解析に用いる。具体的には、(1) Trimmerノックアウト細胞を用いたin vitroアッセイに必要な実験試薬および核酸合成費 (2) 抗体作製費 (3) 次世代シーケンサーを用いたZucchiniノックダウンによるpiRNAへの影響の解析に関わる費用に充てる予定である。
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