研究実績の概要 |
ショウジョウバエのキノコ体(MB)は、忌避性または報酬性の刺激と嗅覚刺激の連合学習による記憶形成の場である。MB神経には機能が異なるサブタイプが存在し、各タイプの軸索束は接続先別に複数の出力領域に区画化され機能していると考えられている。 2光子顕微鏡を用いたカルシウムイメージングにより、学習前の個体のMBにおいて、サブタイプを分離し、かつ、区画化された軸索束の複数の出力域を区別した状態で観察することで、可塑性解析の前提となる基本的な匂い応答の様式を記述し、神経科学的回路図を得ることを目指した。その後、匂いの応答強度や速度,分離度,区画間での遷移様式をサブタイプごとに網羅し、学習後の応答変化の指標とし、それらの基礎的知見をもとに、情報の連合を担う記憶神経回路のプレシナプス側での可塑性を検証することを目標とした。 当該年度までに、本研究を遂行するために必要な全サブタイプのGal4およびLexA系統の組替え体の作成が完了した。現在MB神経を特異的にラベルする系統としては米Janeliaのsplit-Gal4系統がスタンダードとなっているが、本研究室では近年新たにMBγ神経において行動遺伝学的に相反する機能を持つサブタイプγCRE-p、γCRE-n神経を見出し、それらのGal4系統を得た。特に、γCRE-pと同等の発現特異性を持つ系統は未だ報告されておらず、機能的にもγCRE-nと相反することから、両者を分離した状態でのγ神経群の活動の観察が重要であると考えた。これらのサブタイプをラベルするGal4系統とGCaMP発現系統等を掛け合わせ、多重組み換え系統を作成した。また匂いのコーディング様式の解析の観点から、記憶学習実験で汎用される匂い物質であるMCHやOctに加え、生得的に忌避性または誘引性のものとして知られる物質を匂い刺激として追加し、実験と解析を継続している。
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