研究課題/領域番号 |
17K17683
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
大森 良弘 東京大学, 大学院農学生命科学研究科(農学部), 特任助教 (20398390)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 野生イネ / イオノーム / 共発現解析 / カリウム / 低栄養耐性 |
研究実績の概要 |
我々はこれまでに、カリウム欠乏に耐性を示す野生イネイントログレッション系統 (GK) を単離し、GK では、野生イネ由来の 1 遺伝子座により低カリウム耐性が獲得されていることを示した。本年度は、栽培イネ (T65) と GK のカリウム欠乏処理後の時系列トランスクリプトーム、時系列イオノームデータを取得し、遺伝子-イオンの共発現解析を行うことで、カリウム欠乏耐性に関与する分子ネットワークを同定することを試みた。 まず、カリウム欠乏時に共発現する遺伝子-イオンの分子ネットワークとして、T65 で 7 つ、GK で 5 つのグループ (モジュール) をそれぞれ検出した。次に、各モジュールの遺伝子オントロジー解析およびその比較から、T65 に特異的な 2 つのモジュール、GK に特異的な 2 つのモジュールを見出した。T65 に特異的な 2 つのモジュールはタンパク質合成や細胞分裂に関与する遺伝子で構成されており、カリウム欠乏下で T65 の成長が低下していることと一致した。一方で、G27 特異的モジュールは光合成や環境ストレス応答に関与する遺伝子で構成されていた。さらに、GK で検出された遺伝子-イオン共発現ネットワークにおいてカリウムは、GK 特異的モジュールの内の 1 つに含まれていた。このことは、イネ植物体内のカリウム濃度の変動と遺伝子発現の変動に野生イネ (GK) 特異的な、栽培イネ (T65) が持たない関係性があることを示している。そのため、GK の示す低カリウム耐性は GK 特異的モジュールを構成する遺伝子群により制御されると考えられる。 本年度同定したカリウム欠乏耐性に関与すると考えられる分子ネットワーク (GK 特異的モジュール) の詳細な解析は、次年度以降「野生イネが持つ低栄養耐性分子戦略の解明」を行う上で重要な課題である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本申請研究に必要な、栄養欠乏処理後の時系列トランスクリプトームデータ、ならびに時系列メタボロームデータなどの取得には、120 を超えるサンプルをそれぞれに調整する必要があり、特にトランスクリプトーム解析やメタボローム解析には費用面に大きな問題があった。そこで、本年度はオミックス解析をトランスクリプトームとイオノームに絞り解析を行うことでこの問題を回避した。そのため、当初予定していたメタボローム解析とホルモノーム解析を次年度に行うこととした。一方で本年度は、トランスクリプトームとイオノームのデータを統合した共発現解析を行うことで、野生イネ特異的な遺伝子-イオンの分子ネットワークを同定することに成功した。これは当初の期待していた通りの結果であり、次年度以降「野生イネが持つ低栄養耐性分子戦略の解明」を進める上で重要な成果である。そのため、自己点検による評価では「おおむね順調に進展している」を選んだ。
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今後の研究の推進方策 |
次年度以降は、GK について時系列のメタボローム解析やホルモノーム解析を行い、現在得ている遺伝子-イオンの共発現分子ネットワークとの統合を目指す。また、本年度明らかにしたカリウム欠乏時の遺伝子-イオン分子ネットワークに含まれる遺伝子群をリスト化し、タンパク質の種類や機能ごとに分類、さらにパスウェイ解析を通じて、カリウム欠乏時の遺伝子-イオン分子ネットワークとカリウム欠乏耐性との関係を解析する。また、GK にカリウム欠乏耐性を付与している野生イネ遺伝子座内の遺伝子の単離を進める。 低窒素、低リン耐性をもつ野生イネイントログレッション系統における時系列の各種オミックス解析は予算の問題のため取り止める。その対応策として、欠乏処理 有/無 のトランスクリプトームデータの取得を行い、GK においてカリウム欠乏耐性を付与する遺伝子群との比較解析を行う。
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