現代農業は多量の化学肥料を投入することで高い生産性を維持している。しかし近年、過剰な施肥による環境汚染が大きな問題となり、また化学肥料の原材料となる天然資源枯渇の問題が生じている。今後、持続可能な農業を続けるためには化学肥料の投入量を低減しつつも高い生産性を維持することができる新技術の開発が必要不可欠である。本研究で得た以下の成果は、化学肥料に頼らない新しい農業技術の開発に繋がると期待される。 本研究では低栄養 (低窒素、低リン、低カリウム) に耐性を示す野生イネ由来の系統を複数単離した。また、これら低栄養耐性系統について、イオノームとトランスクリプトームとを統合した、低栄養応答のトランスオミクスネットワーク (イオン-遺伝子の共発現ネットワーク) の描画に成功した。低栄養耐性系統に特異的な分子ネットワークの抽出から、野生イネは低栄養に応答して環境ストレス応答に関連する遺伝子群の発現を誘導するが、栽培イネはその機能を持っておらず、低栄養に弱くなっていることが示唆された。本成果により、これまでに知られていない低栄養応答と環境ストレス応答との新たな関係性を見出した。 また本研究では、カリウム欠乏耐性系統について、CRISPER-Cas9系を用いて作成したノックアウト系統の解析により、原因遺伝子の同定に成功した。さらに、原因遺伝子と分子ネットワークで繋がる遺伝子群の解析から、Snf1 関連キナーゼが低カリウムに応答してその mRNA 蓄積量を増加させることを明らかにした。本成果により、野生イネは、糖などの光合成産物の供給が途絶え、かつ呼吸によって貯蔵物質が消費される夜間のエネルギー供給に必要とされる Snf1 関連キナーゼを、同定した原因遺伝子を介して低カリウム応答時にも発現することにより、栄養ストレス下において大きなバイオマスを形成していると考えられる。
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