研究課題
本年度は、腸管組織内共生細菌であるアルカリゲネス菌の形態変化に伴う共生破綻機序と、膜小胞を介した腸管恒常性への影響を解明する目的で研究を進めた。本研究目的を達成するため、アルカリゲネス菌の形態変化に伴う性状変化および膜小胞内容物について、ラマン分光分析法および、免疫学的・分子生物学的解析を行った結果、フィラメント状への形態変化に伴いアルカリゲネス菌から放出されるシトクロムcが、宿主樹状細胞細胞内において、ミトコンドリアからのシトクロムc放出や、それに起因したアポトーシスを誘導することが明らかになった。これまでに、細菌由来のシトクロムcによる宿主細胞群のアポトーシス誘導を報告した例はなく、同研究成果は現在論文投稿準備段階にある。アルカリゲネス菌から放出されるシトクロムcが、樹状細胞のアポトーシスを起因とした、アルカリゲネス起因の共生破綻を誘導する一方で、アルカリゲネス菌由来の膜小胞内容物はシトクロムcとは全く異なっており、短鎖脂肪酸を始めとした生理活性分子群が高密度に封入されていることを新たに見出した。短鎖脂肪酸は代表的な生理活性分子として研究が進められているが、実際の生体内における動態の多くは未解明である。そこで今後、アルカリゲネス菌由来の膜小胞を介した、生理活性分子の動態・機能について、ラマン分光分析や免疫学的・分子生物学的解析により明らかにしていく。
2: おおむね順調に進展している
本年度、アルカリゲネス菌由来シトクロムcによる、宿主細胞群のアポトーシス誘導機構について、招待講演として「Tokyo 2020 UCSD-IMUST International Joint Research Symposium」(2020年2月)及び、 「Rising Stars in Cutting Edge Immunology Research」 (2020年1月)において発表している。また、膜小胞を介した共生細菌由来生理活性分子の動態や、生理活性機能に着目した報告はこれまでになく、組織内共生細菌由来の生理活性分子の機能について、膜小胞を介した新たな機構を提示することが期待されるため。
アルカリゲネス菌由来シトクロムcによる宿主細胞群のアポトーシス誘導については、論文投稿を行う。また、アルカリゲネス菌由来膜小胞の内容物について、ラマン分光分析や免疫学的・文政生物学的解析を進める。本解析過程では、アルカリゲネス菌の培養条件の違いや、膜小胞の質的変化に着目をした解析を行うことで、実際の生体内における膜小胞を介した生理機能の解明を目指す。
本年度、早稲田大学121号館が新設され。これまでの実験施設(125号館)から新棟への移設が必要となった。これに伴い、顕微ラマン分光計の移設・再設置等による実験の遅延が生じたが、現在既に移設作業は完了している。次年度は本年度予定していた顕微ラマン分光計を始めとした解析を進めることで、研究を推進していく。
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Int.Immunol.
巻: 32 ページ: 133-141
10.1093/intimm/dxz071
International Immunology
巻: 8 ページ: 531-541
10.1093/intimm/dxz029