研究課題/領域番号 |
17K17691
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研究機関 | 東京医科歯科大学 |
研究代表者 |
堀内 尚紘 東京医科歯科大学, 生体材料工学研究所, 助教 (90598195)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 水酸アパタイト / 相転移 / プロトン伝導 / 水酸化物 / 水蒸気雰囲気 |
研究実績の概要 |
歯や骨の無機主成分として知られるハイドロキシアパタイトについては、従前よりその結晶構造から強誘電性または反強誘電性を持つことが示唆されてきた。結晶中の水酸化物(OH)イオンの配向が自発分極であるとされるが、強誘電性を明確に示す分極ヒステリシスが観測されない等、未解明な点が多い。強誘電ハイドロキシアパタイトが実現されれば、バイオマテリアルをはじめとする種々のデバイスへの応用が期待できる。 ハイドロキシアパタイトの結晶構造中のOHイオンは、フッ化物(F)イオン、塩化物(Cl)イオン、酸化物(O)イオンによって置換されることが知られている。特に、大気雰囲気の熱処理により脱水が起こり、OHイオンが空孔と酸化物イオンに置換され格子欠陥となる。本研究では、この結晶中の欠陥に着目し、これを制御することでハイドロキシアパタイトの電気的特性(強誘電性)についての知見を得ることを目的とする。 本年度は、欠陥制御を可能にする水蒸気雰囲気中での熱処理装置を導入し、欠陥量制御の可否について検討した。蒸気雰囲気にて1273 K, 10 hの熱処理を施した。得られた粉体を試料とした。試料を加熱しながら拡散反射法にて赤外吸収測定を行った。OH伸縮振動に帰属される3570 cm-1の吸収ピークは、483 Kを超えるとその半値幅が急激に増大した。これは、OHイオンの配向が相転移温度にて秩序―無秩序転移したこと反映した結果であると見られる。すなわち、この結果は、水蒸気雰囲気にて熱処理したハイドロキシアパタイトのOHイオンが秩序化したことを示す結果であり、この欠陥制御した試料がOHイオンを自発分極とした誘電性を発現し得ることを示唆している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の遂行に最も重要なのは、ハイドロキシアパタイト結晶中の水酸化物イオンの制御である。結晶中の水酸化物イオンは、種々のアニオンに置換されること、例えば、塩化物イオン、フッ化物イオン、炭酸イオン、さらには、ヒドリドイオンや酸化銅などの金属酸化物イオンなどに置換される。この結晶中のアニオンの制御をいかにして首尾よく制御できるかが一つの鍵となる。本研究の初年度では、先ず、水蒸気雰囲気での熱処理にて制御を試みた。結晶性のハイドロキシアパタイトの作製には熱処理は不可欠であるが、同時に熱によって水酸化物イオンの欠陥を結晶中に導入してしまうという問題点があった。加熱と同時に雰囲気を制御することで、試料からの脱水を防ぐことが期待できる。本年度は、新しく水蒸気発生装置および雰囲気制御電気炉を導入し、制御の可能性について検討した。また、得られた試料を赤外分光法にて評価し、雰囲気制御熱処理による欠陥の制御が可能であることを確認できた。すなわち、装置の導入が完了し、基幹のプロセスの大枠は確立された。進捗はおおむね順調である。
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今後の研究の推進方策 |
初年度に開発したプロセスを踏まえて、欠陥量を制御した試料を作製し、順次、誘電率測定、熱刺激脱分極電流測定、P-E 測定、表面電位測定等の評価を行っていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
高電圧電源および高圧合成容器の導入に関して、予算見積りよりも低価格で調達可能であったためである。合成に用いる原料、重水(D2O)、アルゴンガスなどの試薬類の購入さらに分光測定の委託費用に充てる。
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