研究課題
ヒトへルペスウイルス(HHV)は水痘帯状疱疹ウイルスやEpstein Barrウイルス(EBV)を含むウイルスの一科である。一部の患者で発症する重症な疾患にはHHVに対する免疫応答の異常が関与していると考えられ、その免疫応答の調節が治療になり得ると期待されているものの、正常な免疫応答そのものに不明な点が多く実現されていない。本研究では、HHVに対する普遍的な免疫応答を解明し、免疫調節による治療の基盤を確立することを目的とした。当該年度は、HHVに対する易感染性を示す原発性免疫不全症(PID、免疫機構に関する単一遺伝子病)患者を同定した。新規のものを含めて複数遺伝子が含まれている。また、in vitroでのHHVに対する免疫機構の異常の解析を行い、HHVに対する免疫応答における当該遺伝子の重要性を示した。この手法は、従来のHHVに対する正常な免疫機構を解析する手法とは異なり、HHVに対して易感染性を示すPID患者において異常な免疫機構を解析することでHHVに対して重要な機構を解明するという逆の手法を用いている。希少疾患であるPIDの臨床検体の集積と機能解析を可能とするシステムを確立することで可能となった。従来からは、細胞株を用いた感染実験、HHV感染患者から得られた組織の病理学的解析、ヒト組織片を移植した免疫不全マウスへの感染実験などといった研究がなされてきたが、それでは解析できなかった個体レベルでの免疫応答の評価や多種の細胞同士の免疫応答の評価を行う次年度への研究計画へつながる成果を得た。
2: おおむね順調に進展している
当該年度の研究計画は、①HHVに対して易感染性をもつ新規のPIDの同定、②同定した患者におけるin vitroでのHHVに対する免疫機構の異常の解析、であった。それによって、HHVに対して重要な免疫機構を同定することが可能となる。当該年度に研究者は、PIDが疑われる臨床検体を集積し、その中から患者由来のDNAを使用してエクソーム解析を行い、遺伝子変異を同定した。その変異が病的意義を持つことを予測するために、蛋白およびRNAの発現低下を確認した。また、機能解析によって機能低下が生じていることを示し、この遺伝子変異が疾患の原因となっていることを証明した。さらに、同定した患者がHHVに対して易感染性を持つことをin vitroで証明した。HHVに対する免疫応答にはHHV特異的T細胞、NK細胞、NKT細胞が主に関与していることが知られているため、それらの数や分化、老化の程度を細胞表面マーカーを染色してフローサイトメーターで解析した。また、EBウイルスについては、患者本人のリンパ芽球様細胞を樹立して患者由来リンパ球と共培養することで、その機能を評価した。上記の解析を複数例に対して行い、一部の患者では復帰突然変異が生じていることを発見した。その復帰突然変異を有するリンパ球において、その機能も回復していること、HHVに対する易感染性も回復していることを証明した。このことによって、この免疫機構がHHVに対して重要であることを、より確かに裏付けられた。以上のように、当初の研究計画とほぼ同様の進捗状況である。そのため、次年度の研究をする上でも支障はない。
当初の研究計画と同様に進めていく予定である。ただし、新規のPIDの探索を行う当該年度の研究によって成果が得られたため、また、その成果が多いほど次年度の研究をする上でも有利となるため、次年度も平行して新規のPIDの探索を続ける予定である。
当該研究とは別の研究と共用可能な実験物品について、他助成金から支出することで当該研究の支出を少なくすることが可能であった。その分の助成金は、当該年度に成果の得られた新規のPIDの探索をさらに続けることに利用する予定である。その成果が多いほど次年度の研究計画が有利になり、最終的な成果も大きくなると考えられる。
すべて 2018
すべて 雑誌論文 (2件) (うち国際共著 1件、 査読あり 2件) 学会発表 (1件)
J Infect Dis
巻: 印刷中 ページ: 印刷中
29729943
J Allergy Clin Immunol
29684201