今年度(三年目)は、前々年度(一年目)に行った古文書史料を中心とした調査と、前年度(二年目)に行った古記録史料を中心とした調査を踏まえ、それらの補充調査を進めつつ、研究の総括を行った。前年度の調査によってある程度判明したように、古記録史料については、公家武家並列文言をストレートに示す用例は少なく、今年度の調査によっても状況は大きく変わらなかったが、古文書史料については自治体史や家分けの史料集などから新たに用例を見出すことができた。また、鎌倉時代に続く南北朝期・室町期の史料の用例についても、鎌倉時代との比較という観点から、一定程度把握しておく必要性を感じ、適宜用例の収集を進めた。鎌倉時代に朝廷(公家・京都)と幕府(武家・関東)とが並列していたというある種の歴史認識が、南北朝・室町期を通じて醸成・浸透していく傾向がうかがえる。 また、本研究全体の総括においては、「天下」という史料用語の重要性に注目した。先行する法制史研究などにおいて、「公家武家」の「徳政」という文言と「天下一同」の「徳政」という文言との関連性が指摘されているが、例えば室町時代の史料に見える「天下京都関東兵乱」といった史料などからもうかがい知れるように、朝廷(公家・京都)と幕府(武家・関東)とを包摂する、より上位の範疇として「天下」が意識されている。こうしたことから、鎌倉時代(中世)の「天下」と「公家武家」との関連について、「天下」に関する研究蓄積のある古代史や中近世移行期の成果も踏まえて検討を行った。
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