当該年度は、研究期間延長期間として、科研費報告書作成に向けて、資料の整理と報告書執筆にあたった。昨年度までの調査の結果を踏まえ、カノン作曲家23名のうち、①オペラ作曲家(グノー、マスネ、ビゼー他)②交響曲作曲家(サン=サーンス、フランク、ダンディおよびフランク楽派他)、③フォーレ、ドビュッシー、ラヴェル、④サティと六人組の4つのグループの作曲家に関して、第三共和政期にフランスで刊行された音楽史書のうち、通史40点における記述の傾向を調査し整理した。カノンの要件としてWeber(1999)および成田の仮説(2016b)と照らし合わせ、「作曲家のカノン(規範)」として位置付けられる要因について考察を行った。さらに、平成30年度の研究において重要な音楽史書と判断した8点に関して、「作曲家のカノン」の選択基準の特徴とその背景について考察した。 音楽史記述の傾向としては、1870-1900年頃までの音楽史書においては①②の作曲家を中心にカノン化が行われていたが、1900-1910年代においては、次第に②の重要性が増した。さらには、1920年代-1930年代には、第一次世界大戦の勝利を機に、「フランス音楽の覇権が再び取り戻された」という音楽史観のものと、①は凋落の象徴として軽視されるようになり、ドイツ音楽の影響が色濃いと見做しうる②については、「前時代の作曲家」と位置づけたうえで、④⑤の作曲家の重要性が強調される傾向が見られた。 科研費報告書には、上記の内容に関してまとめ、出版予定である。昨年度予定していた、主に音楽史書の歴史に関する論考や音楽史書の目次一覧の収録は、時間の制約があり、今後の課題とした。付録として、「作曲家のカノン」に関する音楽史書の記述の抜粋(原文のみ)を収録予定であるが、編集の都合上収録が不可能である場合には、別途Researchmap等で一般公開する。
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