研究実績の概要 |
本研究は、未だ明らかでないヘリコバクター・ピロリ(ピロリ菌)のシアル酸転移機構の有無、ならびにヒト免疫系への影響を検証することを目的とし、以下の研究成果を得た。 ①シアル酸転移酵素(ST)陽性ピロリ株のスクリーニング:世界各地域のピロリ菌株を対象としたスクリーニングを行い、ST遺伝子陽性株を計8株取得した。得られた8株はいずれもアメリカ・インディアン型(hspAmerind)に分類され、その他の地域グループからはST遺伝子は検出されなかった。なお、得られたST陽性株の割合が極少数であったため、疫学的な知見を得るには至らなかった。 ②ST遺伝子群の発現解析とST1/ST2組換えタンパク質の機能解析:上記8株は2つのST遺伝子ホモログ(ST1/ST2)と3つのシアル酸合成遺伝子(neuA/neuB/neuC)から成る遺伝子クラスターを有し、これらが恒常的に発現していることを確認した。一方、抗Sialyl-LeX抗体を用いたブロット解析においては8株中3株が陰性であり、これら3株はST遺伝子群のいずれかに変異や欠損を持つことが確認された。大腸菌発現系にST1/ST2遺伝子をそれぞれクローニングし、精製した組換えタンパク質のシアル酸転移活性を確認した。 [最終年度成果] ③ST陽性ピロリ菌に対するヒト免疫系応答:ヒト由来シアル酸結合型レクチン(Siglec)との結合性試験において、ST陽性ピロリ菌は、Siglec-4(α2,3型)およびSiglec-11(α2,8型)に対して高い親和性を示した。また、ヒト免疫細胞の貪食作用を評価した結果、ST陽性株とST陰性株の被貪食率に有意な差は認められなかった。一方、感染により誘導される炎症性サイトカイン(IL-8)量は、ST陽性株において有意に増加した。抽出・精製したシアル化LPSは、ST陰性株由来のLPSと比べ顕著に高いIL-8誘導能を示した。
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