研究課題/領域番号 |
17K17715
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
茂木 克雄 東京工業大学, 生命理工学院, 東工大特別研究員 (20610950)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | エクソソーム / pH濃度 / イオン濃度分極 / イオン枯渇領域 / 単離・濃縮 |
研究実績の概要 |
当該年度は、流路内培養した血管内皮細胞に近接するエクソソームの様子を捕らえるために、マイクロ流路内で高濃度化したエクソソームの流れを制御できるようなデバイスの開発に取り組んだ。 本研究では、細胞培養後の培養液から取り出したエクソソームを用いて、イオン濃度分極機能を組み込んだ試作デバイスの評価実験を行った。その結果として、イオン濃度分極で生じるイオン枯渇領域の斥力を蛍光観察により視覚的に捉えることに成功した。エクソソームやウイルスおよび、他の様々な微粒子を用いた評価を繰り返すことにより、この斥力がサンプルとなる粒子の帯電量や質量の違いに依存して作用することが明らかになった。 さらに、イオン濃度分極を用いる手法ではサンプル溶液に対して電圧の印加処理が必要になるため、エクソソームが受ける電圧ダメージについても検証を行った。我々はダメージ検証のために、原子間力顕微鏡によるエクソソームの表面形状計測を行い、その結果、エクソソームの形状を変化させるような電圧ダメージが無いことを実証した。具体的には、超遠心機を用いる従来の濃縮処理に対して、本手法による濃縮処理ではエクソソーム残存数が40%以上改善している結果が得られた。 以上の結果を踏まえて、エクソソームの操作精度を高めるために、エクソソームの受けるイオン枯渇領域の斥力についてもさらに解析を進めた。この斥力自体は液中に生じる電場による静電気力によるものと考えられるため、研究代表者は液中のプロトン濃度の分布から斥力の力場を導き出せると考えた。そのため、フルオロセインを用いた二励起によるレーザー誘起蛍光法を適用してイオン枯渇領域内の局所的なpH分布を可視化した。現在、得られた結果から、イオン枯渇領域の斥力とpH分布の勾配との関係について考察を進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当該年度において、研究代表者が卓越研究員に選出されたことにより、所属機関の異動が生じた。そのため、研究に要する設備を一から準備し、研究環境を再構築しなければならなかった。しかし、この課題については、外部の開放研究施設の利用および異動前の所属機関との連携協力により解決することができた。一方で、研究環境の構築の段階で多くの時間を割かれたため、実験に使用するエクソソームの種類を必要最小限に限定し、評価条件を精査して絞り込むことで時間的な課題を解決した。結果として、本年度の目標であったエクソソームの操作を可能にするマイクロ流路の製作はほぼ完了しており、エクソソームの単離・濃縮精度を上げるためのパラメータ検討のための検証実験を開始するまでに至っている。また現在、生体内環境を再現するシステムを構築するため、細胞培養デバイスの製作を並行して開始している。 以上のことから、進捗はおおむね計画通りとなっており、所属機関の変更による当該プロジェクトへの影響は無いものと判断した。
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今後の研究の推進方策 |
所属機関の異動に起因する研究環境の再構築はほぼ完了しているが、研究を進めて行くに従い構築環境の補強や再構築が必要な場合が出てくる。そのような局面を迎えたときの時間ロスを想定して、研究を前倒しで進めて行く。具体的には、デバイス製作とバイオ実験を下記の方針に沿って並行して進めて行く。 デバイス製作の方針については、所属研究所の設備と、4大学ナノ・マイクロファブリケーションコンソーシアムの設備を併用して、一時的に装置が利用できない場合でも別機関の同等装置を利用することで、滞りなく研究を進めて行く。 バイオ実験の方針については、使用するエクソソームを所属研究所でストックしている細胞の培養液から取り出すことで準備時間を大幅に短縮する。デバイス内で培養する細胞については、所属機関内の培養施設と、4大学ナノ・マイクロファブリケーションコンソーシアムの設備を利用した並行培養で条件検討を進める。デバイス内での細胞培養の技術については、独自のノウハウを蓄えつつ、情報交換や研究協力者との交流のために、国内の学術コミュニティの研究会に積極的に参加していく予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
当該年度において、研究代表者が卓越研究員に選出されたことにより、所属機関の異動が生じた。そのため、計画立案時の研究環境で必要とした物品と、新環境で必要となった物品との間に開きが生じており、その差額が次年度使用額となっている。 一方で新環境では、次年度の研究で必要となる器具が圧倒的に不足しているため、生じた次年度使用額を不足品の購入に使用する。
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