研究課題/領域番号 |
17K17718
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
山口 晃 東京工業大学, 物質理工学院, 助教 (00756314)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 電気化学 / 酸素発生 / 酸化マンガン |
研究実績の概要 |
本研究では水の資源化という観点から、普遍元素であるマンガンを用いた酸素発生触媒の開発を目的として行ってきた。特に、活性を決める要因である「Mn3+の安定性」に着目し、これを達成させる上で重要な戦略である「プロトン共役電子移動」および「結晶の面配向」に関して、これらの相関の検討を行った。 異なる結晶面((110)面および(101)面)を優先的に露出させたそれぞれのルチル型の酸化マンガンを用いて、その電気化学的酸素発生特性をプロトン共役電子移動が誘起可能なピリジンの存在下において、検討を行った。その結果、いずれのサンプルにおいてもピリジンを添加することにより中性pHでの酸素発生活性の向上がみられた。しかしながら、その向上の度合いはサンプルによって異なり、(110)面を露出させたサンプルの方がよりピリジン添加の効果が大きく表れた。これは、(101)面では比較的Mn3+が安定であることが報告されているため、そのためピリジンの効果が小さかったのではないかと考えられる。これは、Mn3+が安定である塩基性pHではいずれのサンプルにおいてもピリジンの効果がみられなかったことと合致する。 一方で、酸素発生中に電極表面のスペクトル測定が可能なその場分光測定では、ピリジン無しの条件下ではみられていたMn3+のスペクトルがピリジン添加と共に消失してるということがみられた。これは上記の仮説と矛盾するが、考えられる理由としてはピリジン添加によりMn3+の電子状態が変化した、もしくはMn3+が関わらない、新たな反応経路により反応が進行したと考えられる。 以上の結果は、酸化マンガン上での酸素発生反応において新たな知見を与えるとともに、従来とは異なり、中性pHにおいてMn3+の生成にとらわれない、より高い活性を発現する反応経路を見出した可能性がある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画では、平成29年度においては1.結晶面ごとによる活性種の電子状態と水分解活性の比較、2.各結晶面上におけるCPET特性の検討の二点を推進する予定であった。1.に関してはさらに①特定の結晶面を優先的に露出させたMnO2の合成、②電気化学的な水分解活性の評価、③その場分光吸収法によるMn3+の電子状態の追跡、の三項目を推進する予定であった。これらは概ね達成されており、いくつかの学会において成果発表を行っている。 一方で、本研究を通じて「高い活性を有する中間体の電子状態の特定」を目的としていたが、研究を進めていく中で、これまで活性種として働いていたMn3+がピリジン存在下では分光学的に検出されないといった事象が発生した。しかしながら、これは決してネガティブな結果ではなく、むしろこれまで不安定なMn3+の生成にとらわれていた中性pHにおける酸化マンガン上の酸素発生反応において、Mn3+を介さない新たな反応経路を見出し、より活性の高い触媒開発への知見が得られた可能性がある。
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今後の研究の推進方策 |
今後の推進方策としては、紫外可視分光法等のin situ分光法やキレート剤を用いたMn3+の滴定などの手法を適用することで、ピリジン存在下における各結晶面を規定した酸化マンガン上での酸素発生反応に対して詳しいメカニズムの解明に迫る予定である。特に、反応中におけるより局所的なメカニズムを調査するため、in situ顕微ラマン測定等を導入する。その後は、メカニズムに関して得られた知見と活性との相関を検討し、結果を材料合成へとフィードバックさせることでより効率的な酸化マンガン系酸素発生触媒の開発を目指す。 それと同時並行し、酸化マンガンそのものの電子状態とその表面におけるプロトン移動の相関を検討することで、広く触媒開発におけるデザイン戦略を追及する。最終的にはペロブスカイト系酸化マンガンへと展開することで、固体表面、特に強相関電子系上でのプロトン移動の制御という新たな学理を開拓することを期待している。
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次年度使用額が生じた理由 |
論文投稿を行うにあたり、投稿料を支払う必要があったが、リジェクトされた場合には返金されるという特殊性のため、立て替える必要が出てきた。投稿から受理までが年度をまたぐものであったため、当該額が生じた。現時点では受理されているため、当該額を掲載料に充てるものとする。
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