本研究では、二種類の結晶相の異なる酸化マンガンを用いて、活性促進剤として働く塩基分子の存在下においてその電気化学的な水からの酸素発生能(2H2O → O2 + 4e- + 4H+)の検討を行った。その結果、いずれの試料においても中性pHにおいて塩基添加により電流値の向上がみられた。特にある特定の結晶相を有するサンプルにおいて高い活性がみられた。なお、観測された電流が塩基の分解ではなく酸素発生反応であることは蛍光プローブ式酸素センサーを用いた測定により確認している。 続いて、これらのサンプルを用いて酸素発生反応のカギとなる中間体の挙動をその場紫外可視吸収測定により分光学的に追跡した。その結果、中間体は塩基分子なしではそれぞれのサンプルで同一の挙動を示すのに対して、塩基分子が存在する際には、酸化マンガンの結晶相ごとに異なる挙動を示すことが観測された。電気化学的、分光学的な検討を行ったところ、既存のモデルとは異なり、より高い活性を示した結晶相上では塩基分子が酸化マンガン上に配位をすることにより、活性が向上していることを示す結果が得られた。これは、塩基分子が酸化マンガン表面に配位することで結晶中のMnO6構造が歪み、結合距離が変化したことにより、電解質/酸化マンガン表面の界面での電荷移動を促進したものと考えられる。 本研究は、酸化マンガンを用いた酸素発生触媒開発における新たな知見を示すとともに、異種分子を添加することで結晶相を保ったまま結合距離を変化させるという、今後の材料設計に関して新たな手法を提示するものである
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