研究実績の概要 |
ヒストンの特定のアミノ酸残基の翻訳後修飾と転写活性に高い相関のあることかが分かっている。しかし、発生や分化、環境応答の際に、クロマチン構造がどのように変化し、遺伝子発現が制御されているのかという問題に関しては、あまり理解が進んでいない。生細胞核内でクロマチン構造の変化と遺伝子発現のダイナミクスを明らかにするために、本研究では独自の翻訳後修飾可視化技術とCRISPR/Cas9を応用した特定ゲノム領域の可視化およびエピゲノム編集を組み合わせて、生細胞イメージング計測を行った。ヘテロクロマチン構造をとる領域からの転写活性化のモデルとして、熱ストレス応答におけるSatellite III (Sat3) 領域の非コードRNA の転写活性化に着目し、これまでに以下の知見を得ている。 1. 熱ショック誘導後、転写因子HSF1の結合に続き、ヒストンのアセチル化修飾 (H3K27acなど)がRNA Polymerase 2の活性化とは独立に先行した。 2. 熱ショック誘導後、Sat3領域のクロマチン構造が弛緩し、また運動性がダイナミックに変化した。 3.エピゲノム編集により人為的にヒストンのアセチル化修飾を導入すると、クロマチンの運動性が亢進し、熱ショックがない状態でもSat3 RNAの転写が誘導された。 最終年度は、クロマチンの運動性と転写活性化の相関を調べる実験を主に行った。CRISPR-GO (Wang et al., Cell, 2018)システムを導入し、Sat3領域を核膜近傍に繋留し、核内局在も変化するが、クロマチンの運動性抑制が期待された。Sat3領域を核膜近傍に繋留することでクロマチンの運動性を抑制した状態で熱ショック誘導し、ヒストン修飾やRNA Polymerase 2の活性化の変化を解析した。現在データを解析し、投稿論文として執筆中である。
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