研究課題/領域番号 |
17K17726
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研究機関 | 電気通信大学 |
研究代表者 |
饗庭 絵里子 電気通信大学, 大学院情報理工学研究科, 助教 (40569761)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | ピアノ演奏 / 演奏家 / 情報処理方略 / 感覚モダリティ |
研究実績の概要 |
高度な技能の遂行には,視覚情報や聴覚情報,触覚情報などの感覚情報が活用される.特に緻密な運動制御を行うためには長期間にわたる訓練が必要である上,自己の能力を最大限に発揮するために自分にとって最適な情報処理方略をとる必要がある.ピアノ演奏を例にとれば,楽譜をすらすら読んで演奏できる子どももいれば,楽譜を読むのは苦手だが教師の演奏を聞いて演奏することはすぐにできる子どももいる.つまり,音楽を楽譜から視覚的に読みこんで運動に変換することが得意な子と,演奏を聴覚から取り込んで運動に変換することが得意な子がいるということである.このような個人差は,それぞれが用いる情報処理方略の違いによってもたらされていると考えられる.従って,最終的には同じ運動が出力されるとしても,優先される感覚情報によって運動に至るまでの情報処理方略が異なる可能性がある.しかしながら,多くの研究においては,演奏家と非演奏家というくくりで研究が行われており,演奏家内の情報処理方略の差は検証の対象になっていない.同じ出力が得られる場合にはおおよそ同じ方略を使用しているとされてきたため,実際には存在する違いが埋もれたままである可能性がある.そこで本研究においては,ピアニストを対象として,視覚および聴覚情報の入力から運動に至るまでの情報処理方略の違いを実験的に検証することを目指す.また,視覚情報の処理に重要であると考えられる読譜についても,その効率的な情報処理に活用されている楽譜上の手掛かりを検証する.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では,大きく分けて3つの実験を実施予定であるが,初年度において,そのうち1つ目の実験を終えることができた. 具体的には,聴覚情報の優先度を定量化するための実験である.先行研究により,聴覚情報を優先する演奏家は暗譜が得意であることが示唆されたため,ランダム音列を用いて音刺激の入力モダリティと記憶量や記憶負荷との関係を検証する実験を行った.本実験では,入力モダリティとして視覚(V),聴覚(A),視覚+聴覚(AV)の3条件を用意した.また,楽器演奏時には,演奏音がフィードバックされるため,これが記憶を助けている可能性も考えられる.そこで,記憶した音列を回答するためにピアノを演奏する際,その音をフィードバックする(FB:Feedback)条件とフィードバックしない(NF:Non Feedback)条件を設定した. その結果,耳コピー演奏は得意だが初見演奏は不得意なピアニストは,有意に音列の記憶量が多いことが示された.一方,入力刺激モダリティやフィードバックの有無による記憶量の差は見られなかった.しかしながら,質問紙調査において,入力刺激モダリティやフィードバックの有無によって主観的な負荷が異なると回答していた.つまり,熟達したピアニストの場合,どのような入力刺激モダリティであっても,一旦,自分にとって記憶しやすい情報に変換して記憶している可能性が示された.
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今後の研究の推進方策 |
これまでの実験により,熟達したピアニストの場合,どのような入力刺激モダリティであっても,一旦,自分にとって記憶しやすい情報に変換して記憶している可能性が明らかになった.記憶しやすい情報がどのようなものであるのかについては,それらの情報での記憶を阻害するような実験パラダイムを採用する必要がある.従って,今後の実験においては,記憶を阻害する様な課題を追加して実施する. また,より実際の演奏に即した状況での実験を実施するため,単音によるランダム音列だけではなく,音楽的な旋律や和声進行による実験も実施する.
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究で行っている実験において,当初計画より被験者数を大幅に増加させる必要が生じ,実験参加者謝金の増額が必要となった.また,追加で得られた成果発表の費用も増額が必要となり,合計30万円の前倒し請求を行った.実験の性質上,記憶量が多い被験者は実験参加時間が長くなり,その分の謝金が増額となるため,多めに請求していたため,余剰が生じたものである.これについては,次年度の謝金として使用する.
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