内耳蝸牛の特殊電気的環境を規定するイオン輸送の分子実体の解明

2017 年度 実施状況報告書

• 研究課題/領域番号: 17K17736
• 研究機関: 新潟大学
• 研究代表者: 澤村 晴志朗 新潟大学, 医歯学系, 助教 (10781974)
• 研究期間 (年度): 2017-04-01 – 2020-03-31
• キーワード: イオン輸送 / 内耳蝸牛 / 質量分析

研究実績の概要

蝸牛内リンパ液の電気・イオン環境は、聴覚成立に必須な役割を果たす。これは、蝸牛側壁の上皮組織「血管条」と結合組織「らせん靭帯」によるイオン輸送により維持されると示唆されている。本研究では、近年我々が見出した、Na輸送に立脚するらせん靭帯の特異な正の静止膜電位を成立させる分子実態同定のため、網羅的タンパク質解析を行う。
まず、ラット蝸牛組織から、らせん靭帯に発現するタンパク質を高純度に抽出するため、ビオチンを外リンパ液灌流した。これによって、蝸牛側壁ではらせん靭帯組織のみが標識された。次に、標識した蝸牛らせん靭帯を実体顕微鏡下で蝸牛側壁から分離し、抽出タンパク質をビオチン強親和性ビーズで精製した。この手法で40匹のラットから単離したらせん靭帯のタンパク質サンプルに対して質量分析（LC―MS/MS解析）を行った結果、820種類のタンパク質が同定された。これらの中には、データベース検索により474種類（全体の約58 ％）の膜タンパク質が見出された。また、目的のイオン輸送タンパク質の候補として、形質膜に発現する5種類のイオンチャネルと18種類のイオン輸送体を同定することに成功した。この内容は、第64回中部生理学会および第68回北部薬理学会で報告している。

現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

初年度に予定していた網羅的タンパク質解析を実施し、目的の候補となるタンパク質を複数同定できた。

今後の研究の推進方策

ラットらせん靭帯の細胞から単離したRNAを用いて、候補分子群の遺伝子クローニングを行う。次に得られた遺伝子を培養細胞に強制発現させ、パッチクランプ法によりNa+透過性の有無や膜電位に対する影響を検討する。これによって、候補分子の絞り込みを行う。絞り込み後、候補分子に対する活性化・阻害剤の効果も検討する。効果的な薬物があれば、in vivo計測でらせん靭帯に投与し、内リンパ液電位に対する影響を調べる。

研究成果

• [雑誌論文] Fibrocytes in the cochlea of the mammalian inner ear: their molecular architecture, physiological properties, and pathological relevance (2017)
  • 著者名/発表者名: Takamasa Yoshida, Seishiro Sawamura, Takeru Ota, Taiga Higuchi, Genki Ogata, Karin Hori, Nakagawa Takashi, Katsumi Doi, Mitsuo P Sato, Yoriko Nonomura, Arata Horii, Sugata Takahashi, Shizuo Komune, Fumiaki Nin, Hiroshi Hibino
  • 雑誌名: Medical Research Archives 巻: 5 ページ: 1-16
  • 査読あり / オープンアクセス
• [雑誌論文] Computer modeling defines the system driving a constant current crucial for homeostasis in the mammalian cochlea by integrating unique ion transports. (2017)
  • 著者名/発表者名: Fumiaki Nin, Takamasa Yoshida, Shingo Murakami, Genki Ogata, Satoru Uetsuka, Samuel Choi, Katsumi Doi, Seishiro Sawamura, Hidenori Inohara, Shizuo Komune, Yoshihisa Kurachi, and Hiroshi Hibino
  • 雑誌名: NPJ Systems Biology and Applications 巻: 3 ページ: 1-10
  • DOI: 10.1038/s41540-017-0025-0
  • 査読あり / オープンアクセス
• [雑誌論文] A microsensing system for the in vivo real-time detection of local drug kinetics (2017)
  • 著者名/発表者名: Genki Ogata, Yuya Ishii, Kai Asai, Yamato Sano, Fumiaki Nin, Takamasa Yoshida, Taiga Higuchi, Seishiro Sawamura, Takeru Ota, Karin Hori, Kazuya Maeda, Shizuo Komune, Katsumi Doi, Madoka Takai, Ian Findlay, Hiroyuki Kusuhara, Yasuaki Einaga, Hiroshi Hibino
  • 雑誌名: Nature Biomedical Engineering 巻: 1 ページ: 654-666
  • DOI: 10.1038/s41551-017-0118-5
  • 査読あり / オープンアクセス / 国際共著
• [学会発表] 内耳蝸牛内リンパ液の恒常性に関与する らせん靭帯膜タンパク質の網羅的解析 (2017)
  • 著者名/発表者名: 澤村晴志朗、野々村頼子、任書晃、上塚学、猪原秀典、 堀井新、髙橋姿、永森收志、金井好克、日比野浩
  • 学会等名: 第68回北部薬理学会
• [学会発表] 内耳蝸牛の特殊体液の恒常性維持に関与する 膜タンパク質の網羅的解析 (2017)
  • 著者名/発表者名: 澤村晴志朗、野々村頼子、任書晃、上塚学、猪原秀典、 堀井新、髙橋姿、永森收志、金井好克、日比野浩
  • 学会等名: 第64回中部生理学会