研究課題
1年目では、内耳らせん靭帯組織に発現するタンパク質の網羅的解析を実施した。その結果、当該組織の特異な正の静止膜電位を成立させる分子実態候補として、Na輸送に関わるとされる複数のイオンチャネル・イオン輸送体が同定された。そのうち2種の分子について、ラットらせん靭帯から単離したRNAを用いてクローニングを行い、全長の遺伝子を得た。これらをHEK細胞に遺伝子導入し、強制発現させてホールセルパッチクランプ法によりNa+透過性の有無を調べた。その結果、細胞外液をNMDGを代替として含むNa+-free液に置換したところ、有意に減少する電流成分が確認された。このことから、これらの分子はらせん靭帯において、特異な膜電位維持に関わるNa+透過性を有していることが示唆される。また、最終年度に予定しているらせん靭帯細胞におけるin vivo電気生理学的解析に向けて、マウスの微小な蝸牛に穴を開けてガラス電極を差し込み、蝸牛組織内の電位を測定する実験系を立ち上げた。
2: おおむね順調に進展している
計画の通り、Na+透過性輸送分子の候補を機能的に同定できた。また、in vivoでの電気生理学的評価に向けて基本的な実験系を立ち上げた。
候補分子の活性化剤あるいは阻害剤について、濃度依存性や効果、二種の候補分子それぞれに対する選択性といった性質を強制発現系で評価する。すでに阻害剤の候補分子を一種得ている。これらの化合物は、in vivoにおける候補分子の機能を評価するために活用する。2年目に微小なマウス蝸牛において、組織を傷つけないように薄い蝸牛骨に極小の穴を開ける技術を確立した。この技術を活用し、蝸牛骨の直下に見えるらせん靭帯細胞にガラス電極を当てて、パッチクランプ測定を行う実験系を開発し、蝸牛に直接候補分子の活性化剤・阻害剤を投与することで、当該分子の膜電位維持に対する寄与を測定する。
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Scientific Reports
巻: 9 ページ: 1-21
10.1038/s41598-018-38079-0