昨年度クローニングした同じfamilyに属するトランスポーター2種に加え、質量分析で検出された同ファミリーに属するもう1種の分子についてもクローニングし、HEK細胞の発現系でNa+電流を評価した。その結果、蝸牛側壁外層の側底膜における膜電位に相当する+5 mVにおいて、vectorを導入したcontrol細胞および、昨年解析した2種のトランスポーターに比べて有意に大きなNa+電流が観察された。さらに、候補分子に関する過去の文献を調べたところ、これらのファミリーは主に2量体で機能することがわかった。そこでクローニングした3種のトランスポーターを様々な組み合わせでHEK細胞に導入し電流を解析した。しかしながら、現在のところ、2種のヘテロ発現による電流値の上昇は見られていない。また、足場タンパク質(PSD-95、DLG1)と相互作用すると報告もあったことから、形質膜に安定に発現するためには、これら分子が必要である可能性が示唆された。そこで、これら足場タンパク質についてもクローニングした。今後、HEK細胞の発現系で共発現させてNa+電流に変化が見られるか検討する。また、In vivo実験については、ラットでは蝸牛が小さく、予定していた電気生理学的解析が困難であったため、一般に蝸牛生理機能の測定に用られるモルモットでの測定を試みた。麻酔下で蝸牛を露出させ、骨壁に微小な穴を開けて測定電極を刺入し、内リンパ液電位を測定した。蝸牛内液に候補分子の阻害剤を灌流すると、内リンパ液電位が大きく減少した。この結果から、Na+透過性を持つDIDS感受性の候補分子が、蝸牛側壁外層において機能しており、内リンパ液高電位の維持に重要な役割を果たしていることが示唆された。
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