研究実績の概要 |
平成29年度においては、9-BBN骨格および可還元二座配位子としてN-アルキル-(2-ピリジルメタン)イミン (以下ピリジン-イミン配位子)およびN,N'-ジアルキルエタン-1,2-ジイミン (以下ジイミン配位子)を有する4配位カチオン性ホウ素錯体を合成し、その光応答挙動について明らかにした。ピリジン-イミン配位子をもつ錯体は固体状態で紫外光を照射すると着色し、2,2'-ビピリジンを配位子として有する錯体と同様の光応答挙動を示すことがわかった。一方でジイミン配位子をもつ錯体では光応答着色挙動は観測されなかった。理論化学計算によりカチオン部分の分子軌道を調べたところ、ピリジン-イミン配位子をもつ錯体と2,2'-ビピリジンを配位子として有する錯体では最高被占軌道(HOMO)の形状が類似しているのに対して、ジイミン配位子をもつ錯体ではHOMOが前2者とは異なる分布をしていることがわかった。 平成29年度の成果は、筆者らが見出した光応答性カチオン性ホウ素錯体コア構造をもとにした光応答性化合物の分子設計指針上重要な発見である。即ち、従来は配位子部分に2,2-ビピリジン構造をもつ4配位カチオン性ホウ素錯体についてのみ光応答性を発現することがわかっていたが、平成29年度の成果により、2,2-ビピリジン構造をもたない配位子を持つ場合でも光応答性を発現できることが示された。また、ジイミン構造は共通していてもπ共役系が小さすぎる場合は光応答性を示さないことも明らかになった。これらのことにより、光応答性を発現させるために最低限必要な分子構造がいかなるものであるか、その全貌が判明しつつある点で重要な結果である。
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