本年度もヒト慢性腎臓病(CKD)患者における検討を中心に行った。金沢大学附属病院にて、複数のCKDを有する患者を対象としたが、新型コロナウイルス感染予防体制を継続しており、実際の脳波検査などは実施が困難であった。したがって、これまでの検査結果や臨床データなどの関連において検討を継続した。現在、解析中の部分もあるが、これまでの検討結果では、糖尿病性腎症による末期腎不全例において、認知・行動領域の部位において、血流の低下シグナルを認め、腎不全時の認知機能障害の存在が示唆された。あわせて、同症例の知能指数検査(WAIS;Wechsler Adult Intelligence Scale)を終了しており、専門機関での解析を継続中である。CKD患者における血中および尿中Dアミノ酸測定の検討では、CKD患者ではアミノ酸(AA)の体内プロファイルの変化をとらえることができた。一部のAAは脳内で神経伝達物質として機能しており、AAプロファイルの変化がCKD患者の認知機能に関連しているかどうかを検討した。CKD患者では、非CKD患者と比較して、アスパラギン(Asn)、セリン(Ser)、アラニン(Ala)、およびプロリン(Pro) の血漿レベルが増加していた。また、これらのAAのうち、L-Ser、L-Ala、およびD-Serは、脳内の他のAAよりも高いレベルを示した。 さらにL-Serの脳内レベルは、認知機能および腎機能との相関を認めた。さらに、慢性血液透析患者において認知機能が低下した患者では、血漿L-Serレベルの低下を認めた。以上より、L-Serレベルの低下は、CKD患者の認知機能障害と関連していると想定された。特に、血漿L-Serレベルは、血液透析患者における認知機能障害の新規バイオマーカーとなる可能性を見出した。
|