平成29年度の調査によってその優れた保存状態と当初の想定を超える規模が判明したグアテマラ南海岸のシンカベサス遺跡考古人骨群を中心に研究を進めた。平成30年度を通し国内外の研究機関で進めてきた安定同位体の分析結果が整ったことは特筆に値する。分析結果は当初の研究案通り専用データベースに統合され、巨視骨学鑑定結果、出土考古コンテクストと突き合わせ、議論が進められた。平成31年3月末現在で得られたデータをとりまとめると、以下のような所見を報告することができる。1)シンカベサス考古人骨群は定住農耕を営む集団であったようである。これは骨学的に得られた性別と死亡時年齢の分布状況を、先行研究(古代マヤ文明の最盛期である「古典期」を代表する都市遺跡コパンの巨大考古人骨群)と比較し、得られた所見である。2)一方、シンカベサス考古人骨群は同都市集団と大きくライフスタイルを異にする集団であったようである。これは下肢骨の形態計測の比較から得られた所見である。3)シンカベサス考古人骨群は性別による明白な分業のない社会を生きていたようである。これは生存時最大身長の分布や歯牙う蝕罹患率、大臼歯損耗状況を古典期コパンの都市集団と比較し、タンパク源の配分状況や基礎糧食文化の性差を議論した結果、得られた所見である。4)シンカベサス考古人骨群が生きた先古典期終末期のグアテマラ南海岸には、活発な移民流動が存在していたようである。これは同考古人骨群の第一大臼歯から抽出したストロンチウム安定同位体比を、先行研究のリファレンスと比較し、得られた所見である。5)シンカベサス考古人骨群の食性は、トウモロコシに依存する多様性に乏しいものだったようである。これは同考古人骨群の長骨片から得られた炭素と窒素の安定同位体比を、先行研究のリファレンスと比較し、得られた所見である。
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