本研究は、大学生のメンタルヘルスケアとしてのポジティブ心理学の応用可能性を検討するために、ポジティブ心理学の代表的な介入手法である“3つの良いこと(TGT)”エクササイズによって生じる心理生理学的な変化を、心理学的指標である種々の質問紙や生理学的指標である自律神経機能検査によってとらえ、ポジティブ心理学的介入の効果を多角的に検証することを目的として実施した。 研究期間を再延長した最終年度は前年度に引き続きCOVID-19の影響で研究実施上の困難が生じた。当初計画より少ない対象者数であるが、以下に主要な結果について報告する。 2週間のTGTエクササイズによってPOMSの「混乱・当惑」「緊張・不安」の得点が低下したことから、TGTエクササイズは思考の整理に役立ち、ネガティブ感情の緩和に良い影響を与える可能性が明らかとなった。また、介入によりPOMSの「活力」の得点や楽観度尺度の得点が増加したことから、ポジティブ感情を高めることが示唆された。一方、生理指標の変化はみられなかった。これらのことから、比較的健康度の高い大学生を対象とした場合、TGTエクササイズはネガティブ感情の緩和およびポジティブ感情の向上の両方において効果が発揮される可能性がある。特に、楽観性の高まりがポジティブ感情の変化に影響することが推察された。大学生のメンタルヘルスケアとしてのポジティブ心理学の応用可能性を検討するために気分の変化を包括的に捉え、心理指標のみならず生理指標を介入のアウトカムとした本研究の知見は、ポジティブ心理学の手法を用いた介入研究の進展に寄与する知見であるともいえる。得られた研究成果は、国内学会および研究会2件で報告した。なお、2022年度中の論文投稿を予定している。
|