研究課題/領域番号 |
17K17768
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研究機関 | 金沢大学 |
研究代表者 |
炭竈 享司 金沢大学, ナノ生命科学研究所, 博士研究員 (30579412)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | イオンチャネル / 膜挿入 / 分子動力学 / シミュレーション / トキシン |
研究実績の概要 |
本研究は、細胞内で合成されたイオンチャネルが細胞膜中にどのように侵入し、どのようにチャネル構造を形成して機能を発揮するかを解明することを目的とする。そのために、まずは最も単純なチャネルの一つであるpolytheonamide B (pTB)について、細胞膜への侵入の過程を調べた。pTBは海面由来の毒(トキシン)であり、異常アミノ酸を含む48残基からなるチャネルである。細胞膜に侵入して細胞内外の溶液をチャネルで繋ぎ、イオンを無選択に透過させ、その結果、膜電位を消失させることでトキシンとしての活性を持つと考えられている。方法には原子レベルでのチャネル等の分子の運動を追跡できる分子動力学シミュレーションを用いた。 どのようにpTBが細胞膜に侵入するのかを調べるため、まずはpTBの細胞膜への侵入に関する自由エネルギー面の計算を行った。現在、論文を執筆中のため詳細は述べないが、pTBは細胞膜に垂直に挿入されるという従来の想定とは異なり、細胞膜中において幾らか(約15度)傾いて存在することが分かった。これは、pTBの側面が疎水的であり、その長さが細胞膜の脂質尾部の長さよりも幾分長いためである。さらに、膜挿入のダイナミクスについても調べ、自発的にpTBが細胞膜に侵入する様子を観測した。解析の結果、多段階の侵入過程があることを明らかにした。 また、pTBのトキシン活性の要であるイオン透過についての研究も開始している。しかし、電気生理学的実験の結果とは異なることに、現在のところイオン透過は観測されず、イオン透過に関する自由エネルギー面の解析を行ってその原因を調べている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
pTBの膜挿入の過程について自由エネルギー計算を行い、また自発的に挿入される過程を観測できたことは大きな進歩であるが、論文に結実してはいない。また、多量体化やK+チャネル、Na+チャネルへの展開は進んでいない。そのため、やや遅れていると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
まずはpTBの膜挿入過程の論文を出版することを第一に研究を推進する。第二には、研究実績の概要で述べたように、実験とは逆に、イオンが透過しない結果になってしまっている。これは経験的なポテンシャルの使用が原因かもしれない。そのため、この原因について究明する必要がある。第三には、多量体化の機構について研究を進める必要がある。近年、チャネル等の膜タンパク質は膜中において凝集している可能性があることが分かりつつある。pTBについてもそのような可能性があるかもしれない。また、K+チャネルやNa+チャネルについても研究を始める必要があるだろう。 一方、多量体化については、分子の結合・解離の結果と考えることも出来る。そもそも、分子の結合・解離の過程を原子レベルで解明した例は極めて限られている。特に膜タンパク質は細胞膜という動きにくい環境(少なくとも水中と比べて)での結合・解離過程を調べなくてはならないため、本研究をより難しいものとしている。そこでチャネルに拘らず、他の分子について水中での結合・解離の過程をまずは調べることから始めて、結合・解離のダイナミクス、特に結合の結果としての多量体化の機構について解明する必要もあるだろう。
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次年度使用額が生じた理由 |
論文の出版関連の経費として計上していたが、アクセプトされずに年度を超えてしまったため、その残額が残っている。現在も論文は投稿中であり、出版後の経費に利用する予定である。
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