研究課題/領域番号 |
17K17771
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研究機関 | 山梨大学 |
研究代表者 |
後藤 賢次郎 山梨大学, 大学院総合研究部, 准教授 (10634579)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 主権者教育 / イメージマップ / スノーボールサンプリング法 / 担い手の多様性 |
研究実績の概要 |
本研究課題の「研究の目的」と「研究実施計画」に基づき,資料収集・調査分析パートの前半部である平成29年度は,1)パイロット調査の学会発表および論文化と,2)主権者教育に携わる現場教師,社会人を対象にした調査を行い,以下の成果を得た。 1)パイロット調査の学会発表および論文化については,同年9月27日,日本社会科教育学会(千葉大学)にて,「社会科教員養成課程における学生の社会科教育観の変容と進路選択-山梨大学教育人間科学部生によるイメージマップとライフストーリーチャートを事例として-」の題目で口頭発表を行った。本発表における調査は,イメージマップ等,本研究で用いる調査法によって行い,その有効性が確認できた。また,主権者教育の担い手と“なっていく”途上にある学部4年次の学生の社会科教育観の変容と進路選択を取り上げることで,社会科という一つの教科に教師として関わろうとするものだけでなく,広く主権者教育に教師以外の立場から関わろうとする教育観とその形成過程の一例を示すことができた。この発表は論文化し,『山梨大学教育学部紀要』第26号(2018)に収録されている。これらの成果は,引き続き多様な主権者教育の担い手への調査を進める上で,調査対象者の大学学部期の学びについて考察するための示唆を得られる点で,重要である。 2)主権者教育に携わる現場教師,社会人を対象にした調査については,研究代表者と既に親交のある者に「情報量豊かなケースを知っている人びとを知っている人びと」を紹介していただく「スノーボール(雪だるま式)サンプリング法」を用いて行った。その結果,世代等の属性はある程度重なりつつも,主権者教育観は幅がある合計9名のデータを収集することができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
3カ年に渡る本研究課題は,資料収集・調査分析パート,開発・公表・発展パートの大きく2パートを設け,推進していく。このうち,資料収集・調査分析パートの前半部である平成29年度は,「研究の成果」でも述べたように,「スノーボールサンプリング法」を用いて,国内における主権者教育に携わる現場教師,市民の教育研究活動に関する情報収集を中心に行った。 具体的には,次の9名のうち研究代表者と親交のある国内の現場教師や社会人に依頼し,情報の取り扱いや任意参加の保障等について事前に説明した上で,調査と紹介に協力していただいた。なお,本人から属性の公開については承諾を得ている範囲で示すものとする。僻地校勤務の20代小学校教諭(大学院修了);僻地校勤務の30代小学校教諭;中規模校勤務の30代小学校教諭;小規模校勤務の30代中学校国語教諭(大学院修了);大学附属学校勤務の40代中学校社会科教諭(大学院修了);私立高校勤務の20代美術教諭(大学院修了);私立高校勤務の20代美術教諭;私立高校勤務の30代養護教諭;IT・支援系企業勤務の20代会社員,合計9名である。サンプリングの性質上,比較的20代後半から30代半ばまでの世代のデータが多く集まったが,学校種,担当教科,勤務地の環境は少しずつ異なる。この9名から,音声,イメージマップ,ライフストーリーチャート(主権者教育観形成過程に影響があった出来事を時系列に箇条書きしてもらったもの)をデータとして取得した。 これらのデータについて,現在,音声の文字おこしや整理・分類を進めている段階であるが,既に例えば学部教員養成段階において,教育実習の位置づけなどの違いが見られた。
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今後の研究の推進方策 |
今後,本研究課題は資料収集・調査分析パートの後半,そして開発・公表・発展パートへと進む。このうち,資料収集・調査分析パートの後半部である平成30年度は,平成29年度の研究の成果と研究実施計画に基づき,引き続きデータを収集しつつ,収集したデータの分析による「主権者教育観」とその形成要件及び形成過程の究明を中心に行う。その際,1)「個」の独自性を追求することで全体の本質に迫ろうとする「PAC:Personal Attitude Construct(個人別態度構造)分析法」を用いつつ,2)人がそれぞれの人生の転機でどのように判断したのかを,時間的な経緯を重視して明らかにする「TEM: Trajectory Equifinality Model」をベースにしたライフストーリーチャートを用いる。 具体的には,1)は収集した主権者教育のイメージマップの形状や構造(ネット状/ツリー状に連なった言葉まとまりは,どのような言葉によって形成されているか)に注目し,調査対象者と研究代表者との相互的な解釈を通して,主権者教育観の特色を抽出し,モデル化する。2)は横長の紙の横軸に時間軸を取り,縦軸に現在の主権者教育に関する立場や考え(イメージマップで特に重要だとした言葉)と,それと対極的な立場・考えを取る。そこに,現在のその立場や考えに至る上で,特に印象的だった出来事・経験を書いた付箋を貼っていく。この手法は,主権者教育観が形成されるプロセスを視覚的に捉えることができ,本研究課題を進める上で有効と考え,新たに取り入れるものである。
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