研究課題/領域番号 |
17K17784
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研究機関 | 静岡大学 |
研究代表者 |
一ノ瀬 元喜 静岡大学, 工学部, 助教 (70550276)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 感染症数理モデル / ワクチン接種ゲーム / 社会的ジレンマ / 複雑ネットワーク / エージェントベースモデル / 進化 |
研究実績の概要 |
本年度は多層ネットワーク上で個体が移動するとき感染がどのように広がるか,特に個体の特定の方向への移動が感染の拡大にどう寄与するか,またその感染拡大を防ぐにはどのようなワクチン接種戦略が有効になるのかについてエージェントベースモデルを計算機上に構築し,多数のシミュレーション実験を行った.具体的には以下の研究を行い,成果を上げることができた. 1次元空間での個体群の一方向への移動が感染症の拡大・阻止に与える影響について,エージェントベースモデルのシミュレーションによって調べた.その結果,個体の密度が閾値以下の場合には個体の接触が途絶え,感染が消滅すること,一方で閾値以上の場合には継続的な個体の接触に起因して,感染する個体が常に存在してしまうことが分かった.個体の移動を考慮せず,空間的な混雑効果もない平均場近似による予測と比較することで,移動と空間の混雑効果による感染症の流行が明らかとなった.この結果は,日本物理学会が刊行するJournal of the Physical Society of Japanに掲載された.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
個体の移動が感染症の拡大・阻止に与える影響について一定の成果が得られた.個体の移動に関しては,これまでの数理モデルでは移動を明示的に考慮していなかったり,ランダムウォークなどが仮定されていることが多かった.本研究ではそれらとは異なり,個体の特定の方向への移動の感染症への影響を調べた.個体の密度が閾値以下の場合には個体の接触が途絶え,感染が消滅すること,一方で閾値以上の場合には継続的な個体の接触に起因して,感染する個体が常に存在してしまうことを明らかにした.個体の移動を考慮せず,空間的な混雑効果もない平均場近似による予測と比較することで,移動と空間の混雑効果による感染症の流行への影響を明確にした.これらの結果をまとめることで,国際誌に論文が1つ掲載されたので,順調な研究の進展と判断した.
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今後の研究の推進方策 |
本年度の成果に基づいて,より現実的な2次元空間での個体の移動にモデルを拡張する予定である.特に病気の個体の移動範囲が制限される場合の感染症の拡大に与える影響について詳細に調べる予定である.具体的には,2次元空間に非感染エージェント多数と少数の感染エージェントを最初ランダムに配置する.各エージェントは空間上を一定方向にバイアスがかかった状態でランダムウォークする.この時,感染エージェントは非感染エージェントに比べて移動する量が小さいと仮定し,この影響を調べる.感染エージェントの移動量をパラメータとすることで,病気により動かないことが感染症の流行に与える効果が明確にわかる.このようなより現実的な設定において自発的ワクチン接種をどのようにネットワーク上の個体群に適用すれば感染症の拡大阻止に効果的かを明らかにする.
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