研究課題/領域番号 |
17K17793
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
片山 尚幸 名古屋大学, 工学研究科, 准教授 (50623758)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 冷凍材料 / 三角格子 / エントロピー / 外場制御 / 量体化 |
研究実績の概要 |
最終目標である、電池冷凍技術の実現に向けた舞台開発として、層状LixVS2系の物性探索に注力した。Li0.33VS2の構造・物性研究の結果、約375 Kで6.6J/mol Kもの巨大なエントロピー変化を伴う一次相転移を生じることを突き止めた。低温相においては、3中心2電子結合でつながれた直線型のバナジウム三量体化を含むクラスター形成が生じていることを中性子・X線構造解析により明らかにした。3中心2電子結合は従来型の結合状態である2中心2電子結合よりも弱い結合であり、結合形成に伴うバンドギャップが小さいという特徴を持つ。結果として、従来型のクラスター化合物の大半が低温で絶縁化を示すのに対して、Li0.33VS2では低温相で金属的な電気伝導を保ち続けた。大きなエントロピー変化と金属的電気伝導の両立は、電池冷凍に用いる電極として有用な特性であるのみならず、高熱応答性の潜熱蓄熱材料などへのアプリケーションも期待できる。現在、特許取得に向けて準備を進めている。 また、母体となるLiVS2についても構造解析を行い、314K以下で三角形型のバナジウム三量体が出現していることを明らかにした。これは、1963年にJ.B. Goodenoughによって予言された三角格子上での三量体形成を実験的に明らかにした初めての研究成果と位置付けることができる。電池冷凍材料という観点においては、相転移に伴うエントロピー変化が重要となるが、純良結晶の合成法を初年度に確立した結果、8 J/molKもの巨大なエントロピー変化が生じることが明らかになった。これは既報の値である6.4 J/molKを大きく凌ぐ値であり、冷凍能力の見積もりを大きく改善する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度で舞台となる物質系の開発に大きな進展があった。Li0.33VS2において実用応用の期待できる性能を見出すことに成功し、潜熱蓄熱材料の特許申請に至った点が非常に大きいと考えている。電池冷凍技術という観点においては、LiVS2の低温三量体-高温金属相の相移線を利用した冷凍の実現を目指していたが、Li0.33VS2の低温三量体相-高温相の相転移線も利用可能であることを示したことになる。LixVS2を正極材とした電池化については、県内の産業技術センターと協力して研究を進めており、充放電曲線を得ることに成功している。ただし、歩留まりが悪く性能の向上が今後の課題である。冷凍評価のための周辺アクセサリの作成については、大学内の工作室と協力して作成を進めており、試作品のテストを行っている段階である。
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今後の研究の推進方策 |
舞台開発という観点からは、残された未知電子相であるLi0.5VS2の低温相の構造・物性開拓を進めたい。前年度の研究で高品質な粉末試料の作成法を確立しており、Li0.33VS2と同様に物性測定(磁化・電気抵抗・比熱)、構造解析(中性子回折・放射光X線回折)を行う。Li0.5VS2の物性解明により、VS2-LiVS2間で現れる電子相のほぼすべてが明らかになることから、電池冷凍のみならず、基礎学理の観点においても重要な成果になると期待する。並行して、電池冷凍デモンストレーションの実現を急ぎ行いたい。上述したように、電池の歩留まりの悪さが現在の最大の問題点であり、専門家とのディスカッションを重ねるなどして年度前半中に改善を完了させる。
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次年度使用額が生じた理由 |
予定していた外部機関での測定が、大学職員に対する支援で減額されたことにより、旅費を大幅に削減できた。また、独立基盤形成支援による大きな収入があったが、配分が10月と遅く、現在は購入予定機器を見定めている状態にある。
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