本研究課題では、LixVS2を正極材として利用した電池反応の実現と、母体の物性開拓の両輪を連動させた研究展開を目指しているが、後者において特に顕著な進展があった。Li0.33VS2とLiVS2の高温相の格子構造を調べるため、高エネルギー粉末X線回折を用いたPDF解析をおこなったところ、高温相において低温相の量体化構造が短距離秩序として現れていることを見出した。LiVS2では、低温で三角形型の三量体が現れるが、高温においてはジグザグ鎖パターンが短距離秩序として現れる。一方で、Li0.33VS2では、低温で直線型の三量体が現れ、高温でも直線型の三量体が短距離秩序として現れる。これは、スピンや軌道・電荷自由度が生き残っていると考えていた高温常磁性相において、軌道をはじめとした幾つかの自由度がすでに秩序化を生じていることを意味しており、従来の量体化系の物理と大きく考え方の異なる成果である。これらの物質系においては、高温の電子自由度が低温で秩序化する際に、自由度相当分のエントロピーが放出されると考えられてきた。従って、本研究課題で狙うべき電子相はスピンと軌道の大きなエントロピー変化が期待されるLiVS2の相転移やLi0.33VS2の相転移を対象としてきたが、高温相で秩序化が既に起きていることによって、最も冷凍技術に好ましい電子相を選択するための戦略に変更が必要になった。これは、材料応用という点においては難しさを含むものの、基礎学理という観点においては更なる熱量材料を開拓するための選択肢の幅が広がったと捉えることもできる。
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