本研究は、電気生理学的手法による活性測定とX線結晶構造解析による高分解能の構造情報を組み合わせることによりNavのNaイオン選択的な透過機構の解明を目指している。これまでに原核生物由来ナトリウムチャネルの一種であるNavAbを用いて、1)Liイオン選択性が増す変異体の構造解析と2)イオン選択性フィルターのイオン透過に十分な最小径を持つ変異体の同定を行った。 今年度は1)については、Li選択的な変異体においてイオン選択性フィルター入口のアミノ酸残基を小さい残基にすることでフィルター内に水分子が存在できることを明らかにした。LiイオンはNaイオンよりもイオン半径が小さいが、価数は同じであるためより近く強く水分子と相互作用できるため、水和水の交換速度が遅くなると考えられる。すなわち、フィルター内に水分子が入り込めることで水和水の交換回数を減らすことが可能になるため、それがLiイオンの透過性向上につながったと考えられた。2)については、最小径をもつイオン選択性フィルターについてイオンの取り込みを担う酸性アミノ酸との関係性を解析した。さらに、注目した酸性アミノ酸の数が異なるホモログを複数同定し、これらのイオン選択性を比較したところ高いCa選択性を持つものを同定し、原核生物由来の初の天然のCaチャネルを得ることができた。このチャネルの機能解析から高等生物や原核生物のNaチャネルの先祖のチャネルに相当するものであることが明らかとなり、四量体型イオンチャネルのイオン選択性の派生と展開についての重要な知見を得ることができた。
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