本年度は前年度から引き続き、①磁気抵抗効果・ホール効果による電気的検出,および新たな反強磁性スピントロニクスへの展開として期待される②異常ホール効果を示す反強磁性体の薄膜作製に取り組んだ。①磁気抵抗効果に関しては,Ru2MnGe/Co2Fe(GaGe)積層膜における交換スプリング効果と異方性磁気抵抗効果の組み合わせによるRu2MnGeの磁気抵抗の観測に成功した。また反強磁性絶縁体SmFeO3と重金属Taの積層膜において、スピンホール磁気抵抗効果の測定に成功した。またSmFeO3/Ta積層膜におけるスピンホール磁気抵抗効果の観測に成功した事により、今後はスピントルクを用いたSmFeO3スピンの電気的制御と,スピンホール磁気抵抗効果による電気的検出を組み合わせた素子への応用への道ができた。 一方で②異常ホール効果を示す反強磁性体の候補として、異常ホール効果を示す事が理論的に予測された逆ペロブスカイト型窒化物Mn3NiN系および既にバルクで異常ホール効果を示す事が報告されているMn3Snの作製をそれぞれ行った。双方とも、薄膜作製条件の検討を重ね、MgO(111)基板上にエピタキシャル成長した薄膜作製に成功し、異常ホール効果の観測に成功した。理論予測とは異なりMn3NiNでは異常ホール効果はほとんど得られなかったが、Niを一部Cuに置換することにより異常ホール効果が安定して得られる事を見いだした。Mn3Snにおいては、バルクの報告よりも小さい異常ホール効果のシグナルである事より、結晶性の向上など今後改善する事で、より大きいシグナルが得られると考えている。
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