研究課題/領域番号 |
17K17803
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
高木 博史 名古屋大学, 医学部附属病院, 助教 (10792004)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 肥満 / 視床下部炎症 / 内臓脂肪 |
研究実績の概要 |
本研究においては、塩分の過剰摂取がミクログリアの自然免疫応答機構を過剰活性化し、視床下部炎症の増悪を介して肥満を助長し、メタボリック症候群の病態を形成するという仮説を設定して検討を進めた。マウスを普通食群、高脂肪食群、高脂肪+高塩分食群に群分けして体重の推移を比較した結果、高脂肪+高塩分食群は、高脂肪食群に比較して摂餌量が同等であるものの体重増加が抑制された。解剖の結果、高脂肪+高塩分食群において精巣上体周囲脂肪量は有意に増加した。このことから高脂肪+高塩分食群は高脂肪食群に比較して、内臓脂肪量増加、除脂肪体重減少を来たすことが示唆された。近年、塩分過剰摂取によって筋肉量が低下することが報告されている。今回認められた高脂肪+高塩分食群における除脂肪体重減少についても、筋肉量の減少を介している可能性が推察された。マウスの脂肪量、筋肉量についてはCTによる解析を進めている。肥満に筋肉量低下を合併する病態は、サルコペニア肥満と提唱され高齢社会における病態として注目されている。今後は、塩分の過剰摂取が内臓脂肪増加、筋肉量低下といった体組成の変化を介してメタボリック症候群の病態を増悪させる可能性についても検討を進める方針である。また、今回のモデルにおいて、ミクログリアを介した視床下部炎症の関与について、視床下部弓状核の遺伝子発現を検討した結果、炎症性サイトカイン発現に有意な差は認めなかった。塩分をより高用量負荷したモデルを新たに用いて検討した結果、高脂肪食群に比較して炎症性サイトカインの発現が増加する結果が得られた。今後、塩分過剰が肥満の助長や体組成変化を引き起こす機序として中枢神経系を介した作用があるかについても解析を進める方針である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
マウスに高脂肪+高塩分食を負荷した群は、高脂肪食群に比較して、内臓脂肪量増加と除脂肪体重減少を認めた。一方で、ミクログリアの免疫応答過剰を介して視床下部炎症が増悪するという仮説に対しては、それを裏付ける十分な結果は得られていない。この原因の一つとして、今回解析に用いた高脂肪+高塩分食モデルは、既存の高塩分負荷による免疫応答過剰を報告したモデルと比較して、塩分負荷量が低いためと考えられた。我々は当初、ヒトの日常診療への応用を勘案して、食事からの塩分摂取に近い塩分量を負荷したモデルを用いて検討を開始した。このモデルでは体重差と内臓脂肪増加が観察されるまで期間を要した。塩分負荷量が低いことが、体組成の変化は観察できたものの炎症反応の増加を検出し難かった原因と考えた。今回の結果を受けて、より高濃度の塩分を負荷したモデルについても解析を進めている。その予備的検討においては、視床下部弓状核において、高塩分+高脂肪食群で炎症性サイトカインのmRNA発現が増加する結果が得られた。また、体重増加抑制作用も増強されたため、内臓脂肪量増加、除脂肪体重減少につながるかについて解析を進めていく。今後、両者の塩分負荷モデルを用いて解析することによって、過剰な塩分摂取が中枢に影響する機序や視床下部炎症の増悪、中枢におけるエネルギーバランス調整に対する影響が引き起こされるかについても解析する方針である。耐糖能に対する影響についてはブドウ糖負荷試験、インスリン負荷試験を用いて解析している。筋肉、肝臓に対する影響については、遺伝子発現の変化や組織学的解析を進めている。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの検討により、高塩分+高脂肪食の摂取によって内臓脂肪量増加、筋肉量低下が引き起こされる可能性が示された。肥満に筋肉量の低下を主体とするサルコペニアを合併するとインスリン抵抗性が増悪したり、生命予後が悪化することが報告されている。内臓脂肪量増加、筋肉量低下についてCTや解剖による組織重量などを用いてより定量的に比較する。また、内臓脂肪量増加や筋肉量低下によって、インスリン抵抗性、脂肪肝が進展増悪することが想定されるため、耐糖能評価や肝臓の組織学的解析に着手している。また、筋萎縮を来たす機序についてより詳細に解析することで、病態の解明、治療法の開発を目指す。塩分負荷を増強することで、視床下部炎症が検出される結果が認められたため、塩分過剰摂取がどのようなメカニズムで中枢に感知されて視床下部炎症やエネルギーバランスの調整異常を来たすかについても研究を展開する。塩分過剰摂取はメタボリック症候群の危険因子であるが、その意義については未解明な課題が多い。炎症を介さない体組成の変化についても、肥満症の質的な病態解明、治療法の開発に有用であると考えられるため解析を継続する方針である。
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