塩分過剰摂取が肥満症を増悪させるかを検証する目的で、高脂肪食摂餌による肥満マウスモデルを基に、給餌に塩分を負荷して塩分を過剰摂取させるモデルを用いて、体重の推移や臓器障害を比較検討した。C57BL6雄マウスに高脂肪食(食塩濃度 0.38%)、あるいは高脂肪高塩分食(食塩濃度 2.0%または4.0%)を負荷した体重の推移を比較したところ、高脂肪高塩分食群(食塩濃度 2.0%)においては体重が緩徐に増加し、給餌開始後30週付近で体重差は消失するが、高脂肪高塩分食群(食塩濃度 4.0%)においては体重増加が抑制されたまま給餌開始後30週においても体重差は消失しなかった。視床下部炎症の程度を比較するため視床下部弓状核における炎症性サイトカインの発現を比較したが有意な差異を認めなかった。体組成を検討したところ、高脂肪高塩分食群においては食塩濃度2.0%、4.0%ともに精巣周囲脂肪量が有意に増加していた。以上の結果から、塩分過剰摂取は体重増加を抑制するにも関わらず、内臓脂肪を含めた体組成変化を惹起することが確認できた。高脂肪食群と比較して、高脂肪高塩分食群では、耐糖能が悪化し、インスリン分泌の低下を示唆する所見が得られた。組織学的検討の結果、高脂肪高塩分食群においては、膵島の数やサイズが低下する結果が得られた。膵における遺伝子発現を比較したところ、TGF-β、1型および4型コラーゲンの遺伝子発現が有意に増加しており、高脂肪高塩分食は、膵島において線維化を含む器質的変化やβ細胞の増殖、細胞死などに関与する可能性が示唆された。本研究により、脂質の過剰摂取に塩分過剰摂取が加わると、体重増加促進作用はないものの、体組成変化を来たすとともにインスリン分泌不全による耐糖能悪化を促進するという病態形成機序が想定された。
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