研究課題
認知症患者とその前段階である軽度認知障害の高齢者は800万人を超え、10年後には65歳以上の3人に1人が認知症患者とその予備軍となる。音楽は妄想や興奮状態など、認知症の心理症状の緩和に対する非薬物療法として、老人ホームやデイサービスなどで頻繁に使用されている。症状改善に関する症例報告は多数発表されているが、その機序はほとんどわかっておらず、医学的に妥当な方法を用いて音楽の有効性を明らかにすることは、根本治療薬がなく患者数が激増している現代社会において急務となっている。本研究では、認知症患者を対象に音楽による進行抑制作用の機序と、健常高齢者を対象に音楽による認知症予防の機序を、脳画像と神経心理検査のデータから示し、そこで構築したデータベースに基づいた音楽療法プログラムを作成する。健常高齢者に対する体操の効果の予測因子を明らかにするために、神経心理検査と脳形態計測により介入前の認知機能と脳容積を調べた。地域在住の健常高齢者を、音楽と運動を組み合わせたエクササイズを行う群(音楽体操群)と、運動のみを行う群(体操群)に分け、1年間介入を行った。その結果、介入前の改善・維持群と非改善群のMMSEは差がなかった(p = 0.30)。介入前の改善群の認知機能は、語の流暢性と図形の模写の成績が非改善群に比し良かった。多変量解析の結果、介入前の改善・維持群と非改善群に有意な影響を与える独立変数は語の流暢性であった(p = 0.026)。介入前の改善群の脳容積は、左下前頭回と左上前頭回内側面が非改善群に比し大きかった。音楽体操群もしくは体操群のみの解析では、介入前の改善・維持群と非改善群の認知機能と脳容積に有意差を求めることはできなかった。本研究は、非薬物療法である体操の介入の効果の予測因子として、前頭葉機能と前頭葉容積が重要であることが示唆された。
2: おおむね順調に進展している
健常高齢者を対象に音楽による進行抑制作用の機序を、脳画像と神経心理検査のデータから示すことができたため。
介入が終わった対象者の一定期間後の脳画像と神経心理検査のデータから、音楽療法プログラムを作成する。
論文の掲載料分が年度を跨いでしまったため。
すべて 2019 2018
すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 2件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (21件) (うち国際学会 2件、 招待講演 2件)
Frontiers in Aging Neuroscience
巻: 10 ページ: 1-7
10.3389/fnagi.2018.00087
Journal of Neurology, Neurosurgery & Psychiatry
巻: jnnp-2018-319174 ページ: 1
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ヒューマンインタフェース学会誌
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