研究実績の概要 |
認知症患者とその前段階である軽度認知障害の高齢者は800万人を超え、10年後には65歳以上の3人に1人が認知症患者とその予備軍となる。音楽は妄想や興奮状態など、認知症の心理症状の緩和に対する非薬物療法として、老人ホームやデイサービスなどで頻繁に使用されている。症状改善に関する症例報告は多数発表さ れているが、その機序はほとんどわかっておらず、医学的に妥当な方法を用いて音楽の有効性を明らかにすることは、根本治療薬がなく患者数が激増している現代社会において急務となっている。本研究では、認知症患者を対象に音楽による進行抑制作用の機序と、健常高齢者を対象に音楽による認知症予防の機序を、脳画像と神経心理検査のデータから示し、そこで構築したデーターベースに基づいた音楽療法プログラムを作成する。 認知症に対する音楽療法では、対象者の観察や面接を重ねてから、感覚または経験的に介入方法を選択することが多く、楽器演奏に関してはどのような認知機能が重要であるのかはわかっていない。本研究では、認知症患者が楽器を演奏するために重要な認知機能を明らかにするために、認知機能と楽器演奏の関係性を調べた。その結果、拍と複数スイッチの演奏における、演奏可能群と演奏不可能群を比較した結果、演奏不可能群は演奏可能群に比し、MMSEが低く(p = 0.023)、MMSEの下位項目では見当識と構成が低く(p = 0.035, 0.029)、立方体模写の成績が低かった(p = 0.011)。患者背景、その他の検査項目では両群に有意差はなかった。視空間認知の低下は中重度認知症患者の楽器演奏を障害させることが示唆された。
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