我々は脳内Aβ産生抑制活性を有するILEI/FAM3Cの発現が、AD脳において転写レベルで負に制御されることを示してきた。本研究では、ADの基本病態である脳内Aβ蓄積をきたす一次的原因を解析し、発症前診断法や先制治療法の開発に資することを目的とした。 ①加齢に伴う脳内ILEI発現低下のメカニズム解明 Luc reporter assayでヒトILEI転写開始点上流で弱い転写活性及び強い転写活性を示す領域を同定した。このうち強い転写活性領域はヒトとマウスで配列に相同性が認められた。この配列から転写因子結合モチーフデータベースを用いて候補因子を選出し、培養細胞での強制発現及びknockdownから3候補を得た。ゲルシフトアッセイで強い転写活性を示すDNA配列に対し、2候補の直接結合が示された。また、剖検脳組織の核タンパク質を用いたWestern blotからこの2因子の発現が有意に減少していることが示された。AD脳ではILEIの発現レベルが転写レベルで低下するが、その原因は転写因子の発現低下によることが示唆された。 ②脳内ILEI発現レベルの減少がAD発症のリスク因子となることの検証 ・ILEIノックアウトマウスの解析:ゲノム編集により、ILEI遺伝子をノックアウトした。ホモ接合のノックアウトマウスを得、ILEI発現を確認したところ、発現は認められなかった。App(NL-F)及びApp(NL-G-F)マウスと掛け合わせ、解析を進めている。 ・ILEIコンディショナルノックアウトマウスの解析: ゲノム編集により、ILEI-floxedマウスを得、CaMKII-CreERT2マウスと掛け合わせ、目的のコンディショナルノックアウトマウスを得た。このマウスのILEI発現は脳ニューロンにおいて減弱した。App(NL-F)及びApp(NL-G-F)マウスと掛け合わせ、解析を進めている。
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