研究課題/領域番号 |
17K17817
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
金沢 篤 京都大学, 白眉センター, 特定助教 (40784492)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | Calabi-Yau多様体 / Fano多様体 / ミラー対称性 / Lagrangianトーラスファイブレーション / Kahler構造 / 導来圏 / モジュライ空間 |
研究実績の概要 |
本年度は(1)Calabi-Yau(CY)多様体の退化に関するDHT予想と(2)Kahler構造のモジュライ空間上のWeil-Petersson(WP)幾何学を主に研究した。(1)DHT予想とはCY多様体がFano多様体達の和にTyurin退化する場合に、CY多様体のミラー対称性と退化先のFano多様体達のミラー対称性を関係付ける予想である。楕円曲線の場合に証明が得られていたが、本年度は証明をAbel多様体の場合に拡張し論文に纏めた。大きな違いはAbel多様体のミラー対称性を論ずる際に格子偏極の情報を付加する必要がある点である。しかし鍵となるアイデアは楕円曲線の場合と同様で、CY多様体の退化先のFano多様体達の(退化と整合性のある)Lagrangianトーラスファイブレーションの底空間として得られる整アフィン多様体達の貼り合わせを考えることである。(2)CY多様体の複素構造のモジュライ空間上にはWP計量が自然に備わっていることが古典的に知られている。ミラー対称性を鑑みるとこの微分幾何構造のKahler類似の存在が期待できる。そこで導来圏の安定性条件の理論を援用して、CY多様体のKahler構造のモジュライ空間上のWP計量となるべき標準計量を定義した(Y.-W.Fan氏とS.-T.Yau氏との共同研究)。楕円曲線の自己直積について、その連接層の導来圏の被約安定性条件の空間を導来同値で割った空間がSiegelモジュラー多様体と同一視でき、我々の定義したWP計量が古典的なBergman計量に一致することを証明した。この結果は同種な楕円曲線2つの直積に簡単に拡張できる。またクインティックCY多様体の場合にも適当な仮定のもと我々のWP計量がPoincare計量の量子変形が得られることを示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
Abel曲面の場合にDHT予想を完全に解決したことは研究計画通りである。これはK3曲面や高次元の場合の大きな手掛かりとなると考えられ、今回得られた証明の知見をより一般の場合に活かせると考えている。実際、CY多様体のTyurin退化は実3次元多様体のHeegaard分解の複素類似であり、証明はこの類似に沿った自然で満足のいくものである。CY多様体のKahler構造のモジュライ空間上のWP構造に関しては類似の研究は今のところ存在しなく、新しい方向の研究を着実に進められたと考えている。楕円曲線の自己直積やクインティックCY多様体の場合の結果は基本的で大事な具体例であり、研究が正しい方向を向いていることの傍証になっている。以上の点を総合的に踏まえ、おおむね順調な進捗状況と判断した。
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今後の研究の推進方策 |
DHT予想の研究を進める過程で、Landau-Ginzburg模型の構成法についても新しいアイデアが得られたので、今後はこの方向の研究にも取り組みたい。またCY多様体のトーリック退化とテータ関数に関して幾何学的量子化の重要性が少しずつ明らかになってきたので、その理解をさらに厳密に深めたい。CY多様体のKahler構造のモジュライ空間に関しては、一般に我々が定義したWP計量は退化しており安定性条件の空間の適当な部分空間を切り出す必要がある。この困難はKahler構造のモジュライ空間の大域的構造と関係し、高次元CY多様体に対してTorelli型の定理が成立しないことの類似とも考えられる。視点を変えて、逆にこの退化性を利用してKahler構造のモジュライ空間の情報を抽出する問題にも取り組みたい。
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