研究実績の概要 |
Dolgachevによる格子偏極K3曲面のミラー対称性の定式化は, "偏極格子の(K3格子内での)直交補格子が双曲格子Uを含む"という条件が課されるため, ミラー対称性の完全な定式化とはなり得ないことが知られていた. 昨年度の研究では, 考察対象を一般化K3曲面に拡張することでこの問題を解決し, (一般化)K3曲面のミラー対称性の定式化を完全な形で与えた. 拡張の鍵は(1)一般化Calabi-Yau構造[Hit, Huy]を考えることで変形空間を増やすこと, (2)向井格子に関する格子偏極を考えることの2点である. この定式化はAspinwall-Morrisonが提唱した共形場理論的なミラー対称性の数学的実現[AM]としても理解出来る. 昨年度は特異K3曲面(直交補格子が正定値)の場合を主に考察したが, 今年度は直交補格子が双曲格子の真の定数倍U(k)のみ含む場合がBrauer群の捻りとして理解できることを証明した. また昨年度の研究で得られたK3曲面のKahler剛性の概念の高次元化に取り組んだ.
研究期間全体として, 当初の計画を超えた多くの結果が得られた. 具体的には, (1)Calabi-Yau多様体の退化とLandau-Ginzburg模型の貼り合わせに関するDoran-Harder-Thompson予想の楕円曲線の場合の完全な形での解決, (2)Bridgeland安定性条件を用いたA-模型Weil-Petersson計量の構成, (3)3次元Calabi-Yau多様体の複素/Kahlerモジュライ空間のアトラクター機構の基礎理論の構築, (4)一般化K3曲面のミラー対称性の定式化とKahler剛性の概念の導入, などの結果が得られた.
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