近年、100-200 ℃においてベータ硫酸ランタン β-La2(SO4)3 結晶中へ気相中の水が比較的高速に脱挿入されることが発見された。この現象は従来知られておらず、また脱挿入時に吸熱・発熱を伴うことから化学蓄熱材としての応用も期待される。本研究は、その微視的メカニズムおよび速度論の解明を目的とした。 前年度までに、硫酸ランタン九水和物 La2(SO4)3・9H2O (粒径約50ミクロン)を300 ℃で脱水させて生成したベータ硫酸ランタンの組織は、厚さ数百ナノメートルの平板状の微細な結晶が積層した「板状節理」状となっており、その粒界拡散が水の高速な脱挿入に寄与していることを明らかにした。また、ベータ硫酸ランタン結晶中における水の安定位置はb軸方向に一次元的に配列しており、結晶中への水の脱挿入は、ホスト結晶構造を維持したままでの、それら安定位置をつたった一次元拡散によるものとわかった。 最終年度は、ベータ硫酸ランタンと同様に200℃以下で脱水・水和反応を起こすが結晶構造が異なる硫酸イットリウムY2(SO4)3について、そのメカニズムを調査し、希土類硫酸塩の脱水・水和反応についてより一般化した知見を得ることを目指した。窒素ガス吸着測定および透過型電子顕微鏡観察により、硫酸イットリウム8水和物Y2(SO4)3・8H2O(粒径数百ミクロン)を200℃で脱水させて生成した硫酸イットリウムの比表面積は、Y2(SO4)3・8H2Oの100倍以上に増大しており、数ミクロン間隔の空隙が生成していることがわかった。また高温X線回折により、80-130℃での可逆的な脱水・水和反応はホスト結晶構造を維持した水の脱挿入によることがわかった。これらの材料組織・結晶構造上の特徴は、硫酸ランタンと硫酸イットリウムに共通するものであり、200℃以下での可逆的な脱水・水和反応の実現に寄与していると示唆された。
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