研究実績の概要 |
引き続き、冷却気体系で近年実現されたトポロジカル量子ポンピングに関して、重ねられた光格子の1つを有限の速さで動かす場合の解析を進めた。1次元系での密度行列繰り込み群を用いた相互作用の効果の解析に加え、2次元系で斜めの駆動を行った場合の研究も進めた。 トポロジカル絶縁体上に形成された穴あき超伝導体や、グラフェン片等での実現が期待される、系の全てのフェルミオンの間にランダム4点相互作用をもつ模型であるSachdev-Ye-Kitaev(SYK)模型について、前年度、4点相互作用の到達距離を限定して多体局在を実現する可能性を、エネルギー準位統計(ELS)の解析で示した(改訂した論文が2019年2月に出版済)。多体系の量子カオスは従来、ELSおよび、非時間順序相関 (OTOC) で特徴づけられてきた。ELSは厳密対角化が可能な小さな系を除いて計算が困難である。一方、OTOC の時間依存性から求まるリアプノフ指数が、基礎物理定数と温度の積で書かれる上限をもつことが近年指摘され、SYK模型などでの研究が急速に進んだが、上限が実現されるのは大きな系の極限である。一方古典カオスに対し、代表者らは最近、有限時間のリアプノフスペクトル(LyS)の準位統計とランダム行列理論との対応を見出した。これを量子系に拡張し、SYK模型でランダムホッピングを加えカオス性を弱めた系[A. M. Garcia-Garcia, B. Loureiro, A. Romero-Bermudez, and M. Tezuka, Phys. Rev. Lett. 120, 241603 (2018)]、および多体局在の典型的模型であるランダム磁場を加えた量子スピン鎖について、量子LySの準位統計とカオス性の対応を示した(出版済)。さらに、より単純な、2点関数の行列の特異値スペクトルでも同様の解析を行い、論文投稿中である。
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