本研究はヒトにおけるストレス長期化メカニズムを進化的な観点から考察するために、チンパンジーのストレス長期化に関わる要因をあきらかにするものである。今年度は熊本サンクチュアリのチンパンジーにおいて、高順位個体間での行動の違いと長期的ストレスの関連について分析を行った。高順位個体の中でも、採食が独占できるような個体に関してはストレスレベルが低いことがわかった。このように、オスにおいて社会関係との関連などが様々見つかってきているが、メスにおいてははっきりしていない。メスにおいても毛づくろいから見られる社会関係と長期的ストレスレベルの分析を行ったが、影響が見られなかった。また、今年度は同じ霊長類であるコモンマーモセットを対象とした長期的ストレスと行動及び遺伝的基盤に関する共著論文が出版された。長期的ストレスレベルの指標としてこれまでチンパンジーで用いてきた体毛中コルチゾル測定を応用し、検討を行ったところ社会性やいくつかの遺伝子との相関が検出された。同様の傾向がチンパンジーでも見つかるかどうかが今後の検討事項である。さらに、昨年度までに行った本研究プロジェクトに関連した日本語での論文の掲載され、その他3本の論文が査読中または印刷中となっている。
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