本年度は研究の最終年度であり、昨年度までの研究業績を踏まえて、十分に検討できていなかった課題に取り組むとともに、今後の研究の方向性を模索した。 バルベラックのキリスト教的人間像と「啓発された自己愛」概念を検討する上で重要な著作である『娯楽論』(全2巻、アムステルダム、1709年)のうち、最終篇である第4篇の翻訳と、以前に翻訳した同書の序文および第1篇第1章の訳文修正に取り組んだ。 本研究課題の成果の一部として昨年2月に京都大学学術出版会から出版された拙著『啓発された自己愛:啓蒙主義とバルベラックの道徳思想』の合評会が、社会思想史学会第44回大会(甲南大学岡本キャンパス、2019年10月)の「ヒュームとスミス」セッションで開催され、著者としてリプライを行った。その際に、バルベラックの「啓発された自己愛」概念と古代ギリシャ・ローマ哲学との関連について、拙著の内容を敷衍し、バルベラック(あるいはプーフェンドルフ)の人間本性の同一性を基礎とする「啓発された自己愛」の源泉が、キケロの『善と悪の究極について』と『義務について』で言及されている、ペリパトス派のピリアー(友愛)に類似した、外向的で他者に向かう利他的なオイケイオーシス(親密圏)に遡りうる可能性を指摘した。 スコットランド啓蒙(グラーズゴウ大学道徳哲学講座)において、アダム・スミスとは異なり三義務論を継承した系譜(カーマイクル-ハチスン-リード)に、キケロの義務論が与えた影響について探究すべく、キケロの義務論の把握に努め、その研究動向を調査した。 本研究によって得られた知見に基づき、スコットランド啓蒙におけるスミスの道徳哲学体系の特異性に関する研究をさらに進めてゆきたいと考えている。
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