研究課題/領域番号 |
17K17834
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
余越 萌 京都大学, iPS細胞研究所, 特別研究員(PD) (80791938)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | エピトランスクリプトーム |
研究実績の概要 |
未だ不十分なiPS細胞の樹立及び標的細胞への分化効率を向上させるために、幹細胞維持機構を解明することは極めて重要である。これまで、DNAのメチル化などの転写制御に焦点を当てた研究が主流であったが、本研究では、転写後制御、特に新しい転写後修飾として近年続々と発見されているRNAのメチル化に着目した。本研究は、翻訳活性型及びメチル化RNAを網羅的にシーケンスすることによって、iPS細胞特異的なRNAのメチル化制御機構の分子基盤情報を確立することを目的とした。 本年度は、リボソームプロファイリング法によるiPS細胞特異的な翻訳活性型mRNAの回収mRNAに結合するリボソームの密度を定量することで、翻訳活性型mRNAを網羅的に同定できるリボソームプロファイリング法をヒトiPS細胞とES細胞、iPS細胞への初期化前のヒト線維芽(HDF)細胞において確立した。その結果、HDF細胞と比較してiPS細胞において特異的に翻訳活性が高い遺伝子群を同定した。次に、この遺伝子群がどのような機能をもつタンパク質をコードしているかを確かめるため、Gene ontology (GO) 解析を行った。その結果、iPS細胞で翻訳活性の高い遺伝子は、RNA代謝に関わる遺伝子をコードしてしていることが明らかになった。その後、候補遺伝子を絞るため、RNAi screeningを行ったところ、特にRNAの修飾に関わるタンパク質がiPS細胞の機能に重要である可能性が示唆された。今後は、RNAの修飾がどのRNAをターゲットにしたものなのか、そしてどの部位の修飾が幹細胞の機能的に重要なのかについて検討していく予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、新しい転写後修飾が近年続々と発見されているRNAのメチル化に着目し、翻訳活性型及びメチル化RNAを網羅的にシーケンスすることによって、iPS細胞特異的なRNAのメチル化制御機構の解明を目的とした。 本年度は,リボソームプロファイリング法によるiPS細胞特異的な翻訳活性型mRNAの回収mRNAに結合するリボソームの密度を定量することで、翻訳活性型mRNAを網羅的に同定できるリボソームプロファイリング法をヒトiPS細胞とHDF細胞で確立した。先ず、培地中にタンパク質合成阻害剤であるシクロヘキシミドを加えてリボソームをmRNA上に固定させる。そして、細胞溶解後、RNA分解酵素(RNase)処理でRNAを断片化する。その後、リボソームに結合するRNAを抽出・精製して、RT-PCRを行い、網羅的シーケンス可能なcDNAライブラリーを作製した。シーケンスの結果、HDF細胞と比較してiPS細胞において特異的に翻訳活性が高い遺伝子群を同定した。次に、この遺伝子群がどのような機能をもつタンパク質をコードしているかを確かめるため、Gene ontology (GO) 解析を行った。その結果、iPS細胞で翻訳活性の高い遺伝子は、RNA代謝に関わる遺伝子をコードしてしていることが明らかになった。その後、候補遺伝子を絞るため、RNAi screeningを行ったところ、特にRNA修飾に関わるタンパク質がiPS細胞の機能に重要である可能性が示唆された。
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今後の研究の推進方策 |
本年度は、幹細胞を用いたリボソームプロファイリング、RNAi screeningなどの実験により、RNAの修飾に関わるタンパク質がiPS細胞特異的に翻訳活性が上昇していることが明らかになった。したがって、来年度以降は、RNAの修飾がどのRNAをターゲットにしたものなのか、そしてどの部位の修飾が機能的に重要なのか、さらには幹細胞特異的な修飾部位は存在するのかについて検討するために、メチル化RNAの網羅的シーケンス解析を行う予定である。幹細胞特異的なメチル化部位が特定された場合、そのメチル化を欠損させたたた状態では、幹細胞の生存や機能にどのような影響をもたらすのか、そして、昨年度に明らかにしたiPS細胞の翻訳活性に変化をもたらすのかどうかを解析していく。本研究の結果は、幹細胞維持の基礎生物学的な理解にとどまらず、iPS細胞及び幹細胞特異的な転写後RNA修飾機構という新たな研究分野の開拓に繋がることが期待できる。
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