インドネシアでは小規模農家(以下、小農)のアブラヤシ農園が拡大しており、熱帯林の破壊や小農農園の低生産性などが問題視されている。世界のパーム油産業関係者が参加する「持続可能なパーム油生産のための円卓会議(以下、RSPO)」は小農の持続的なアブラヤシ生産を推進するためにRSPO認証制度を策定し、この問題に取り組んでいる。本研究は①小農のRSPO認証取得の実態を小農の生計戦略上の利害と小農の認証取得に関与する外部主体の利害の一致という視点から解明すること、②「(小農の望む)生活の持続」という視点からRSPO認証制度の意義と内容を再検討することを目的としていた。研究結果は以下のとおりである。 リアウ州の小農RSPO認証の取得の事例では、小農は企業からの技術指導、生産物の優先買取、生産物の高価格買取に認証取得の意義を見出していた。これらは認証の取得で自動的に発生するメリットではなく、契約企業の自主的なサポートによって実現していた。企業は小農の生産物の質の向上に意義を見出し、また企業のRSPO認証の原則・基準に地域貢献が定められていることから、小農の認証取得を技術面・経済面でサポートしていた。NGOは国立公園への小農の違法な農園開拓を抑止することを目的に認証取得を制度面でサポートしていた。小売企業は自社のCSR活動の一環として認証取得を資金面でサポートしていた。小農RSPO認証は多様なアクターの多様な利害の一致の中で実現していたのであった。 現行の小農RSPO認証制度の原則・基準では、国家の法規則の不正義(不公平な土地利用権の配分と不適切な土地利用区分)を不問にし、小農に苦痛をもたらしえること、認証基準で定められている持続可能な生産方法が小農の「生活の持続性」を脅かすリスクになりえること、RSPO認証制度そのものが政治的弱者である小農に不利に働くリスクがあることが明らかになった。
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