熱外中性子を用いたホウ素中性子捕捉療法(BNCT)では、中性子の体内での熱化を利用することで、熱中性子を深部まで到達させることが可能である。一方で、熱中性子束の体内でのビルドアップや減衰のため、浅部の病巣に対する線量不足や、深部方向に分布した病変に対する大きな線量勾配が生じる場合があり、補償フィルターを用いた線量分布の改善が図られている。本研究では、患者毎に線量分布を最適化したBNCTを実現することを目指して、個々の患者の病変の位置と形状に合わせて補償フィルターを設計・作製する手法を開発することを目的としている。最終年度である2022年度は、最適線量分布の検証のため、単純形状ファントムを用いた検討を継続して実施した。2021年度に取得した円筒ファントム中の熱中性子束の実験データに対して、精密なシミュレーション計算に基づく検証を行った。実験に用いた補償フィルターなし、矩形フィルターありの2条件、および2020年度に実施した最適化計算により得られた形状を有するフィルターを使用した場合の計3条件について、ビーム軸上の熱中性子束分布を比較した。浅部に設定した腫瘍領域に対して、フィルターがない場合では、熱中性子束のビルドアップのためビーム入射面近傍において線量低下が見られた。一方、矩形フィルターを用いた場合では、フィルター内部でビルドアップが生じるため浅部の線量が増加した。最適化されたフィルターを用いた場合では、腫瘍領域のほぼ中央において熱中性子束がピークとなるように形状が調整された結果、最も効率的に腫瘍に線量を集中できることが明らかとなった。研究期間全体を通して、補償フィルターの最適化手法を確立し、頭部を模擬したファントムを用いたシミュレーションによって線量分布が改善されることを示し、さらに単純形状ファントムを用いた詳細な検証により、補償フィルター最適化の有用性を示すことができた。
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