研究課題/領域番号 |
17K17842
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
山泉 実 大阪大学, 言語文化研究科(言語社会専攻、日本語・日本文化専攻), 講師 (80592336)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 指示参照ファイル(reference file) / 名詞句 / コピュラ文 / 認知形而上学 / 認知的視座 / 自由拡充(free enrichment) / 指定文 / 認知語用論 |
研究実績の概要 |
本研究課題では、「指示参照ファイル理論」(Reference File Theory, RFT)という理論を1から作っている。2019年度は、RFTの精緻化とモノグラフの執筆が中心となったが、以下の成果を公にできた。 指示参照ファイルの概念を提唱したジャッケンドフ『意味と思考の取扱いガイド』(岩波書店)を共訳・出版。RFTの立脚する認知的視座とそれに基づく意味研究の重要性などを語った本であり、RFTを世に出すにあたっての地ならしとなる。 第15回国際認知言語学会にて“A cognitive-pragmatic account of specificational sentences”と題して発表。RFTの最初の学会発表で、RFTの概要を提示。 第52回科学哲学会大会にて「名詞句の“自由拡充”が抱える問題とその根源」と題して発表。RFTの2つ目の学会発表で、RFTの言語観とそれに基づく分析を提示。第158回日本言語学会で「極性疑問が潜伏している名詞」と題して発表。新しい枠組みを提示する時間はなかったが、RFTによって適切に分析できる現象を提示し、疑問詞疑問文しか潜伏していないと従来考えられていた潜伏疑問文には、極性疑問文・選択疑問文もし得ることを示した。第109回慶應意味論・語用論研究会にて「N-意味理論と指示参照ファイル理論の潜伏疑問と潜伏命題に対する分析」、第113回慶應意味論・語用論研究会にて「名詞句の自由拡充・タイプAの「NP1のNP2」・アドホック概念による変項の束縛の批判的検討と指示参照ファイル理論による分析」と題して数時間ずつ発表。 理論を1から作るという貴重な経験から出発した科学哲学的考察を「言語学の理論的研究を阻害する諸バイアス」(『日本語・日本文化研究』第29号)にまとめ、理論構築研究をする上で様々な障害があることを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
指定文と名詞句の自由拡充と言われている現象を構築した理論によって分析し、学会発表するに至ったため。
理論の精緻化はモノグラフの執筆を進められるほど進んだため。
モノグラフの進捗状況は、8つの章を書き終わり(2018年度終了時点では、1つの章を書き終わっていた)、原稿の半分以上は執筆できたため。
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今後の研究の推進方策 |
1.構築した理論で以下の言語現象・哲学的問題を分析し、それを通して理論を精緻化する:コピュラ文、存在文、変化文、潜伏疑問文(特に潜伏極性疑問文、潜伏選択疑問文)、潜伏命題文、固有名、確定記述、不透明文脈、構成のアンチノミー、普遍者など。 2.上の現象を扱っている他の理論(N-意味理論、メンタル・スペース理論、メンタル・ファイル理論など)の分析とRFTの分析を比較する。 3.N-意味理論からRFTへの名詞句研究のパラダイム・シフトを起こすべく、科学哲学における科学革命についての議論を参考にする。 4.2019年度は、独自の理論を構築している本研究の成果を、学会発表や投稿論文という小さく限られた枠で発表することは極めて困難であることを痛感した。そのため、それらの方法で小出しにするのではなく、モノグラフを執筆する方向に舵を切ることにした。2020年度中にモノグラフの執筆を一通り終えることを目指す。 5.時間の制限が厳しい学会ではなく、小規模の研究会で長時間発表し、有益なコメントを数多く得る。また、RFTに興味のある研究者をRFTを扱ったオンライン授業に招き、RFTを広め、コメントを得る。
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次年度使用額が生じた理由 |
発表した国際学会が国内開催だったため、旅費を使わずに済んだ(今後代わりに使う機会を得られるかは、新型コロナウイルス禍のため不明)。 理論が進展し、言語学だけでなく他分野の文献も多数参照する必要が出てきたため、いくらかは文献購入費用に使用する計画がある。
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