本研究は「意味論と語用論を明確に区別した上で、認知語用論(特に関連性理論)の立場から、コピュラ文の各タイプと名詞句の文中での“意味”機能と言われるものを意味論・文法に帰さずに、語用論(言語使用において常に働いているコンテクストを参照した推論)で捉える可能性を探求する」(申請書)ことを目的として始まった。 認知語用論の知見は、ジャッケンドフの『思考と意味の取扱いガイド』(研究代表者共訳)で述べられている「指示参照ファイル」の概念と結びつき、「指示参照ファイル理論」という名詞句を中心に扱う認知意味論・認知語用論の理論を大枠を構築することができた。これは、認知的視座からの名詞句解釈の一般理論であり、コピュラ文に限らず、存在文、潜伏疑問名詞句、潜伏命題名詞句など、全自然言語の全名詞句の理解を深めるものである。コピュラ文については、(倒置)指定文の主語名詞句に対する分析を公にした。 2021年度は、「潜伏疑問名詞句再考:N-意味理論の分析の批判的検討」(『言語文化研究』47: 101-121)、「変項名詞句の階層を再考する : N-意味理論の分析の批判的検討と指示参照ファイル理論による分析」(『東京大学言語学論集』43: e49-e75)、「潜伏命題名詞句再考 : N-意味理論の分析の批判的検討と指示参照ファイル理論による分析」(『基礎言語学研究』1: 1-37)を公刊し、理論全体の概要とともに、潜伏疑問、潜伏命題などの現象に対する指示参照ファイル理論の分析を提示し、その有効性を示した。また、指示参照ファイル理論の源流の一つである本の邦訳『なぜヒトだけが言葉を話せるのか』(研究代表者共訳)も刊行に至った。 次年度からは、基盤Cの「存在文とコピュラ文の解釈多様性と形式的統一性:指示参照ファイル理論による解明」に引き継がれ、同理論による研究が継続されることになる。
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